前回の記事において、
GPSなどのテクノロジーを活用する場合、

  • その数値の測定の目的をはっきりとさせること
  • PDCAサイクルを回し、
    様々な検証を繰り返し行うこと

が必要だと述べました。

うまくPDCAサイクルをまわしていくことで
適切な運動量のコントロール法が
徐々に分かってくるとは思いますが、
最適なものを見つけるには数か月、
もしくは数年かかるでしょう。

しかし、とりあえず測定を始めて
そこから試行錯誤を開始していくよりも、
「このような運動量の推移だと
このような結果になりましたよ」
といった前例があれば、
まずはそれを参考にした方が効率的ですよね?

そこで今回は
「このような運動量の推移だと
このような結果になりましたよ」
といったことを報告した
科学的なデータをご紹介いたします。

急性負荷/慢性負荷

近年、スポーツ中の傷害発生と、
GPSなどを用いて測定した
競技中の運動量(走行距離)との関係について
調べた研究が行われています。

その中の1つであるHulinら (2016)の
ラグビーの走行距離に関する研究では、
急性負荷(Acute Load)と
慢性負荷(Chronic Load)の
比率(急性/慢性比)が
傷害発生と関連があることを
明らかにしています(1)。

この研究では急性負荷、慢性負荷を
以下のように定義しています。

  • 急性負荷
    その1週間で走った総走行距離
  • 慢性負荷
    その前の週までで走った4週間分の総走行距離の
    1週間当たりの平均

つまり手前4週間で走った
総走行距離が80㎞だと、慢性負荷は20㎞、
そのときの急性負荷が30㎞だとしたら、
急性/慢性比は30km/20km⇒1.5となるわけです。

そしてこの研究では急性負荷の高さそのものも
傷害発生率との関連が示されたのですが、
急性/慢性比についても傷害発生率と強い関連が
示されました。

具体的には急性/慢性比が2.1を上回ったときに
傷害が多く発生しています。

このことから、
実際にGPSで走行距離をモニターする場合、
負荷を高めていきたいときでも
急性/慢性比が2を上回らないように
するべきだということが分かります。
個人的にはもう少し安全めに~1.5程度に
抑えるのが良いのではと考えています。

栄養摂取が運動量に与える影響

上に挙げた研究は
【運動量が~に与える】でしたが、
次は【~が運動量に与える】影響について
ご紹介します。

Souglisらは、サッカー選手を対象に、
試合前3日間で高糖質食を摂取した場合と、
低糖質食を摂取した場合で
走行距離にどのような差が出るのかを
検証しました(2)。

その結果、試合中の走行距離は
高糖質食⇒9380±98m
低糖質食⇒8077±109m
と、高糖質食のほうが有意に長い走行距離
示しました。

食事の内容だけでここまで変わるものなんですね。

走行距離の増加をどう捉えるか

最初の急性/慢性比の研究は、
走行距離の急激な増加による傷害リスクの増加
可能性を示しています。
走行距離の増加がネガティブな因子として
捉えられますね。

一方、高糖質食の研究においては、
食事内容の改善により、走行距離の増加
示されました。
これは走行距離の増加といったものが
ポジティブに捉えられます。

このように、同じ走行距離の増加といったものが、
その原因や、次につながるものによって
ネガティブにもポジティブにも捉えられます。

コンディション向上による試合の走行距離の増加は
ポジティブなものでしょうが、
相手にパスを回され走らされた結果であれば
ネガティブなものでしょう。
練習量が増えたことによる走行距離の増加であれば
傷害のリスクになり得ます。

前回の記事でも述べた通り、
GPSなどのテクノロジーは単体では
意味を成しません。

科学的データの活用であったり、
自チームで測定した数値の正しい解釈を通して、
初めて意味を持つのです。

執筆者:佐々部孝紀(ささべこうき)

参考文献

  1.  Hulin, BT, Gabbett, TJ, Lawson, DW, Caputi, P,
    and Sampson, JA,
    The acute:chronic workload ratio predicts injury:
    high chronic workload may decrease injury risk in
    elite rugby league players.
    Br J Sports Med 50: 231–236, 2016.
    http://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/26511006%5Cnhttp://bjsm.bmj.com/lookup/doi/10.1136/bjsports-2015-094817
  2.  Souglis, AG, Chryssanthopoulos, CI, Travlos, AK,
    Zorzou, AE, Gissis, IT, Papadopoulos, CN, et al.
    The Effect of High vs. Low Carbohydrate Diets on
    Distances Covered in Soccer.
    J Strength Cond Res 27: 2235–2247, 2013.
    http://content.wkhealth.com/linkback/openurl?sid=WKPTLP:landingpage&an=00124278-201308000-00025