どのような競技であっても、
試合、もしくは練習前に
ウォームアップを行いますよね?

実際に様々な研究のデータを統合してみたところ、
約8割の研究でウォームアップによる
パフォーマンスの向上が報告されています。*文献3

しかしながら逆に2割近くの研究では
パフォーマンスの向上が認められなかったり、
パフォーマンスが低下してしまっているとのこと。

これらの、効果がなかった、逆効果であった
ウォームアップには以下のような特徴があります。

  • 競技特異的でない
    (上肢のパフォーマンスなのに下肢のウォーム
    アップしか行っていないなど)
  • 体温を上昇させるのに十分な時間でない
  • ウォームアップのボリュームが大きすぎて
    疲労してしまっている
  • ウォームアップからパフォ―マンスまでの
    時間が空きすぎていて効果が打ち消されて
    しまっている

上記のことは現場で経験を積んでいる
トレーナーの方であれば分かりきっている
ことですよね。

パフォーマンスの内容であったり、
ピークへの持っていき方のタイムスケジュールを
きちんと考えれば上記のようなミスは
起こらないでしょう。

また、上にも挙げた通り、
考慮しなければならない大きな要素として
「体温の上昇」があります。

それでは

「体温は上がれば上がるほど良いのか?」

この疑問については皆さんどう考えるでしょうか?

本日はその疑問を解決するヒントになる論文を
ご紹介いたします。

体温の上昇とパフォーマンスの関係

Warm Up I
Potential Mechanisms and the Effects of Passive
Warm Up on Exercise Performance*文献1

Warm Up II
Performance Changes Following Active Warm Up
and How to Structure the Warm Up*文献2

著者:David Bishop (2013)

こちらの論文は2部構成で、
ウォーミングアップの理論とその実施の注意点に
ついて述べられています。

様々なデータが示されており
大変参考になるのですが、
今回はこの論文で紹介されている
体温の上昇とパフォーマンスの関係について
ご紹介させていただきます。

まず一言にパフォ―マンと言っても、
その運動強度や運動時間によって、
ウォームアップから受ける影響が異なります。

この論文では運動を

  • 短時間運動(~10秒)
  • 中時間運動(10秒~5分)
  • 長時間運動(5分~)

に分けて考えています。

結論から言うと、
体温(筋温)の上昇は
短時間運動にはポジティブな影響を与え、
長時間運動にはネガティブな影響を与えます。

体温上昇が短時間運動(瞬発力)に与える影響

まず、短時間運動(瞬発的な運動)には
パワーが必要です。

そしてそのパワーは
「力」×「速度」で構成されており、
筋温の上昇によって筋収縮の速度が向上し、
パワーが向上することが明らかとなっています。

そのためウォームアップによる体温の上昇は、
握力計を握るような静的な筋出力には
あまり影響を与えませんが、
ジャンプやスプリントといった
能力を向上させるのです。

その向上率はジャンプ力では筋温1℃あたり4~5%

つまり、36℃から38℃以上に筋温を上げると、
ジャンプ力が約10%向上するということです。
もちろん、スプリントスピードも
それに伴い向上するでしょう。

体温上昇が長時間運動(持久力)に与える影響

夏場のマラソンと冬場のマラソンでは
どちらのほうが良いタイムが出るでしょうか?

もちろん、そのときのコンディションにも
よるかもしれませんが、
夏場のマラソンでは暑さでバテてしまい、
思うように走れないですよね。

持久的パフォ―マンスを行う上では、
特に暑熱環境下では、いかにこの体温上昇による
バテを起こさないか(熱容量をオーバーしないか)
といったことが重要になってきます。

そのためウォームアップで
余計に体温を上げてしまうと、
わざわざ熱容量を減らすことにつながり、
結果的にパフォーマンスを低下させてしまいます。

そのため長時間運動のウォームアップでは、
体温の上昇を目的とするのではなく、
ダイナミックストレッチや
アクティベーションドリルで
全身の筋肉を活性化するに
留めるのが良いでしょう。

まとめ

今回は体温(筋温)上昇の
メリット・デメリットをご紹介しました。

しかし、
瞬発力も持久力も必要な競技ではどうするの?…
といった疑問も浮かびますよね。

いずれ私なりの考えも述べていこうと思いますが、
科学的なデータを材料にして
自分で最適なプログラムを料理する
というのもトレーナーの楽しみの1つ。

是非自分なりの最適なウォームアップを
考えてみてください!

佐々部孝紀(ささべこうき)

参考文献

  1. Bishop, D.
    Warm up I: Potential mechanisms and the effects of
    passive warm up on exercise performance.
    Sport Med 33: 439–454, 2003.
  2. Bishop, D.
    Warm up II: Performance changes following active
    warm up and how to structure the warm up.
    Sport Med 33: 483–498, 2003.
  3. Fradkin, A, Zazryn, T, and Smoliga, J.
    Effects of warming-up on physical performance:
    a systematic review with meta-analysis.
    J Strength Cond Res 24: 140–148, 2010.