多くのスポーツで「足腰の強化」のために行われている
「走り込み」

近年ではこの方法が効率的ではないことは
世に広まりつつあります。

トレーナーとして活動している方々は
耳にはさんだこともあるかもしれない
「持久的なトレーニングは筋力やパワーの向上、
筋肥大を阻害する」
ということ。

未だに一般の方々やコーチの間では知られていない
ことなのかもしれません。

筋力やパワーは、スプリントスピードやジャンプ力の
向上には不可欠な要素です。

トレーナーとしては過度な走り込みをやめさせたい。
けれど、コーチ・監督が「昔からやってることだから」
と選手たちに膨大な量の走り込みをやらせている。
そんなチームも少なくないのかもしれません。

目的の曖昧な過度な「走り込み」はパフォーマンスの
向上にあまり効果的ではない一方で、
「走り込み」が必要な場面もありますし、
筋力やパワーの向上をなるべく阻害しないような
「走り込み」の方法もあります。

しかしそもそも「走り込み」やその目的となっている
「足腰の強化」という言葉自体が曖昧ですよね。

そこで今回は、「走り込み」「足腰の強化」などの言葉を
明確に定義し、それが実際にどのように筋力やパワーに
影響を与えるのかを実際の研究例をもとに
具体的に紹介していきます。

走り込みとは?足腰の強化とは?

比較的長い時間(数十分)を一定のペースで走る
ランニングなどの持久的なトレーニングを、
ここでは「持久走」とします。

数十メートルの瞬発的なスプリントを
比較的長いレストを挟んで行うトレーニングは
「RST(Repeated Sprint Traing)」として
持久走とは区別します。

また「足腰の強化」とは
「下半身の筋力の強化」
「下半身のパワーの強化」
「下半身の筋持久力の強化」
あたりを示すのではないでしょうか。

それぞれ強化のための方法は異なりますので、
明確に区別する必要があります。

持久走の効果、デメリット

持久走を行うことで「最大酸素摂取量」の向上や
「下半身の筋持久力」の強化にはつながりますが、
「筋力」や「パワー(力×速度)」の向上は
あまり期待できません。

むしろ普段行っている筋力、パワーのトレーニングの
効果を阻害してしまうと言われています。

これは研究でも実証されていることで、
2012年のWilsonらのメタアナリシス※1において、
持久走を行った場合、行わなかった場合の
筋力トレーニングの効果を比較しています。

表 筋力トレーニング方法の効果比較 (Wilson et al, 2012より引用、一部改)

トレーニング方法 ES値※2
筋肥大 筋力向上 パワー向上
筋力トレーニング 1.54 2.22 0.91
筋力トレーニング+持久走 0.68 1.23 0.55

※1 メタアナリシス:
複数の研究結果を統合して分析したもの。最も質の高いデータが得られる。

※2 ES(Effect Size、効果量):
トレーニングなどの効果がどの程度あったかの指標。
被験者が比較的運動経験のある者である場合、0.35以下だとほぼ効果はなし。
1.5以上だと大きな効果ありだと解釈する。(Rhea, 2004)

表に示してある通り、
筋力トレーニングだけを行った場合に比べて、
持久走も加えて行った場合は、
筋肥大、筋力向上、パワー向上の効果量は
半分近くまで低下しています。

また、持久力トレーニング1回当たりの時間、
週当たりの頻度が増えるほど、阻害効果は大きくなる
ことがこの研究では明らかとなっています。

これは間接的にはスプリントスピード向上、
ジャンプ力向上をも大きく阻害すると言えるでしょう。

もちろん、先述したように、筋力トレーニングに加えて
持久走が必要な場合も多くあります。

サッカーやバスケットボールなどの球技スポーツは、
スプリントスピードやジャンプ力といった瞬発力だけで
なく、持久力も必要だからです。

ただ試合中に運動量が維持できていないとしても、
それがすべて持久力の問題だとは限りません。

もしかすると、そもそもの瞬発力が足りておらず、
相手選手が7割のスピードで動いているところを、
自分たちは9割で動かないと追いつけずに、
より早く疲労してしまっているのかもしれません。

相手チームに体格(筋肉量)で劣っているので、
コンタクトで余分に体力を削られているのかもしれません。

行わなければいけないトレーニングは
チームによって違うとは思いますが、
その判断材料、1つの知識のピースとして、
「持久走は筋力トレーニングの効果を妨げる」
ということは是非知っておいてくださいね。

執筆者:佐々部 孝紀

参考文献
MATTHEW R. RHEA
DETERMINING THE MAGNITUDE OF TREATMENT EFFECTS IN STRENGTH TRAINING RESEARCH THROUGH THE USE OF THE EFFECT SIZE
Journal of Strength and Conditioning Research, 2004, 18(4), 918–920

JACOB M. WILSON, PEDRO J. MARIN, MATTHEW R. RHEA, STEPHANIE M.C. WILSON, JEREMY P. LOENNEKE, AND JODY C. ANDERSON
CONCURRENT TRAINING: AMETA-ANALYSIS EXAMINING INTERFERENCE OF AEROBIC AND RESISTANCE EXERCISES
Journal of Strength and Conditioning Research, 2012, 26(8)/2293–2307