一般的に認知されている、
超回復理論における「48~72時間という回復期間」

この時間の間に次のトレーニングを行わなければ
効果がないということは間違った解釈であり、
トレーニングの強度や量によって
適切な回復期間は異なってくる。

というのが前回の記事の内容でした。

さて今回の記事では前回に引き続き、
超回復理論の誤った捉え方について紹介していきます。

超回復理論といえば、
以下の図のように、一度トレーニング刺激を与えて
パフォーマンス、コンディション、または筋力を始めと
する体力要素が低下した後、時間経過とともに、
以前のパフォーマンス以上に回復するという理論です。

そのためスポーツ現場ではたまに、
「試合前に一度追い込んで、
超回復によるコンディションの向上のピークを
試合当日に持ってこよう」
という形で、
試合の数日前に高負荷のトレーニングを行っている
場合も耳にします。

もちろん、長いシーズンの中で目的を持って
そのようにトレーニング・練習プログラムを組む場合は
問題ありません。

しかし、その時の状況・目的によっては、
むしろ追い込まないことでコンディションを増加
させる方が効率的である場合もあります。

本日紹介するのは、
フィットネス-疲労理論と言われるものです。

イメージとしては、
超回復理論で起きている現象を2つの要素から説明
したものになります。

フィットネス-疲労理論 (Chiu and Barnes, 2003より改変)

Chiu and Barnes (2003) は、
そのフィットネス-疲労理論について
以下のように説明しています。

・トレーニング後はフィットネス(筋力などの体力)の向上が起きる
・トレーニング後は疲労の増加が起きる
・パフォーマンスはそのフィットネス(+)と疲労(-)の足し引きで決まる
・トレーニング直後はフィットネスの向上を疲労の増加が上回るため、パフォーマンスが低下する
・フィットネス、疲労と一言に言っても様々なフィットネス、疲労がある
・トレーニングの強度、量、様式(高負荷or高速度)によって起こる反応は違う

もう一度この図を見ていただくと分かると思いますが、
パフォーマンス(青線)は超回復理論と同じような形を
とっています。

しかしながら超回復理論のように
「一度パフォーマンスが落ちる」というよりは、
・トレーニングの刺激によってフィットネスは向上
・疲労によってその効果がかき消される
(目に見えるパフォーマンスとしては低下している)
・疲労が軽減することでパフォーマンスの向上が現れる
ということになります。

超回復理論よりもややこしいですが、
この概念を理解することは非常に重要です。

例えば超回復理論のみで考えると、
パフォーマンスの向上には、
どのような場合でも一度トレーニングによって
パフォーマンスを低下させる必要があります。

一方、フィットネス-疲労理論で考えると、
状況に応じてもっと選択肢が増えるのです。

例えば、パフォーマンスが10の状態が
あったとしましょう。

状況①は、フィットネスが10、疲労が0、合計で10
状況②は、フィットネスが100、疲労が-90、合計で10

極端な例ですが、状況①の場合は、
パフォーマンスの向上にトレーニング必要で、
状況②の場合はトレーニングを行わなくても
休息をとることでパフォーマンスが向上する
ことが予測できると思います。

そのときの状況に合わせて
フィットネスをなるべく落とさないように
トレーニング量を調節すると、
なお良い結果が得られるでしょう。

もちろん、目標とするフィットネスが
もっと高いレベルにある場合は、
状況②でもさらなるトレーニングが必要でしょう。

しかし、そこはシーズンのどの時期か、
(試合期、トレーニング期)にもよりますし、
オーバートレーニングに陥らないように注意する
必要もあります。

少しややこしい概念になるかもしれませんが、
トレーニング、コンディショニングを行う上で
必ず必要となる考え方ですので、
押さえておきましょう!

執筆者:佐々部孝紀

参考文献
Loren Z.F. Chiu and Jacque L. Barnes
The Fitness-Fatigue Model Revisited: Implications for Planning Short- and Long-Term Training
Strength and Conditioning Journal, 2003, Volume 25, Number 6, page42-51