「筋トレをしすぎると身体は固くなる」

トレーナーとして活動していたら一度はこのような
主張を耳にしたことがあるのではないでしょうか。
中には、この理由からウエイトトレーニングを
毛嫌いしている選手もいるかもしれません。

もし選手やコーチから
「ウエイトトレーニングをやると
身体は固くなりますよね」
と聞かれたら何と答えますか?
そしてその答えに根拠はありますか?

もしもその答えに明確な根拠がなかったり、
なんとなくで答えてしまったら、
トレーナーという専門職としてはまずいですよね。。

ストレッチをやれば大丈夫?

筋トレだけでは可動域が低下するけど、
ストレッチを併用すれば大丈夫って聞いたから、
とりあえずストレッチを筋トレ後にやってます!

なんて考えの人も中にはいるかもしれません。

もしもその考えが正しければ、
毎回30分のトレーニング時間のうち
10分をストレッチに回すことになり、
トレーニング時間が20分になるかもしれません。

一方、筋トレで身体が固くなることはない!
と断言できれば、
ストレッチを行わずに
30分まるまるトレーニングを行う、
という選択肢もでてきますよね。

そこで今回は、
ウエイトトレーニングが柔軟性に与える影響
についての研究をご紹介します。

柔軟性と筋力トレーニング

Flexibility and Strength Training
(K.Thrash and B.Kelly, 1987)

この研究では18~41歳までの13人の男性に
11週間(計29回)、全身のウエイトトレーニングを
フルレンジ(大きな可動域)で行わせ、
その前後で柔軟性を測定した、
というシンプルな実験を行っています。

その結果、
足関節背屈可動域
+5.5°(p<0.05)
肩関節伸展可動域
+6.7°(p<0.05) 足関節底屈、体幹屈曲、体幹伸展、肩関節屈曲可動域も 有意ではないものの向上 (p>0.05)と、
身体は固くならず、
むしろ可動域の向上が認められました。

研究自体がだいぶ古いものになりますが、裏を返せば
「筋トレで柔軟性は損なわれない、
むしろ柔軟性は向上する」
なんてことは、30年も前にすでに明らかになっている
ということです。

研究デザイン自体には
コントロール群を置いていなかったり、
測定方法の詳細が記されてなかったりと
多少問題点はあるのですが、
この後に続く研究を見てみても
「筋トレが身体を固くする」
といった報告はあまり見られません。

もちろん、筋トレを行ったその翌日に、
筋肉痛で可動域が低下することは十分に考えられますが、
それが筋トレを行わない理由にはならないでしょう。

そんなことを言ったら
長い距離を走った翌日には疲労が残るので、
マラソン選手はハードな走り込みをするべきではない。
なんて話も筋が通ることになります!

一方で、この研究だけでは
ストレッチの効果をすべて否定することもできません。

例えば、そもそもの可動域が狭いせいで
ウエイトトレーニングを大きな可動域で行えない場合は、
ストレッチを併用することも有効でしょう。

ウエイトトレーニングによって可動域が向上する部位は
ウエイトトレーニングで使う部位に特異的と考えられるので、
不足している部分のストレッチは行うという考え方は
理に適っています。

メリット・デメリットをふまえたトレーニングを

何事にも行うメリット、デメリットはあります。
もちろんウエイトトレーニングにも。

しかしメリットとデメリットを明確に把握していないと、
効果的なトレーニングプログラムを組むことが
できませんよね。

少しでも疑問に思ったことを明確にして、
きちんと答えられるようにしておくことは
我々トレーナーの責任です。

今回紹介した知識も、是非皆さんの指導のピースとして
活用してください!

参考文献
K.Thrash and B.Kelly
Flexibility and Strength Training
Journal of Applied Sport Science Research, 1:(4)74-75, 1987