柔軟性(ROM)を構成する要因として
2つの事項を挙げることが出来ます。

●脳のトレランス(ストレッチトレランス)
●筋の物理的・構造的特性

筋の物理的・構造的特性が変化することによって、
筋腱スティフネスの変化が起こります。

スタティックストレッチによって
その直後の筋腱スティフネスの低下、
それに伴うROMの増大が起きますが、
その変化は一時的なものであり、
中期的なストレッチの介入によって
筋腱スティフネスは変化しないということを
前回の記事で紹介しました。

実は、
「そもそも筋腱スティフネスが
低いほうが良いのか?」

という部分にも議論の余地があります。

詳細に見ていきましょう。

スティフネスの改善vsストレッチトレランスの改善

下腿の筋力トレーニングを実施した結果、
腱のスティフネスが向上し、
ランニングエコノミーが向上したという
研究もあり、
一概に筋腱スティフネスが低ければ低いほど
良いのかというと疑問が残ります。

一方ROMの増加に関していうと、
あればあるほど良いという訳ではありませんが、
スクワットを綺麗なフォームで遂行するためには
股関節の屈曲ROMが必要ですし、
投球動作においては
胸椎の伸展・回旋、肩複合体の水平外転ROMが
大きいほうがボールに与えられる力積も
大きくなる可能性があります。

そのため、
筋腱スティッフネスの変化が伴わない
ROMの改善(ストレッチトレランスの増加)
であっても、
決して意味がないとは言えません。

前回の記事でも紹介した通り、
スタティックストレッチによるROMの向上は
そのほとんどが
ストレッチトレランスの向上によるものだと
言われています。

実際、
Freitasら(2018)のメタアナリシスでも
スタティックストレッチによって
スティフネス(Slope of Torque Angle Curve)の
変化はなかったものの、
ストレッチトレランス
(Maximal Tolerated Passive Torque)は
増加したことが報告されています。

Freitas et al., 2018より

ストレッチトレランスへのアプローチ

ストレッチトレランスは文字通り
『ストレッチへの痛み耐性』のことで、
その変化は組織自体ではなく
脳のレベルで起こるとされています。

ここについても面白い研究がなされていて、
Henriquesら(2019)は
脳の痛みに関連のある領域に
電気刺激を与えながらストレッチを行うと
ROMが増加したことを報告しています。

また、Behmら(2021)は
メタアナリシスにて別の部位を
ストレッチすることでも
ROMが増加することを報告しています。

このように
トレランスへのアプローチは抹消ではなく
より中枢で起きているのではないかという研究は
年々進んでいるようです。

これらの知見を活用して、
例えば膝を手術したときに、
逆の膝周りや股関節をストレッチしておけば

「術後の可動域訓練もより順調に進むかも?」

といった仮説が立つ可能性があります。

現場で検証してみても面白いし、
こういった分野の研究が
進んでいくことにも期待ですね。

まとめ

本日はROM増加の主要因である
『ストレッチトレランス』について
解説していきました。

抹消ではなく中枢で起きている変化だからこその
活用法も浮かんできますよね。

是非現場でもこの知識を活用してみてください!

参考文献

  1. Albracht, K and Arampatzis, A. Exercise-induced changes
    in triceps surae tendon stiffness and muscle strength affect
    running economy in humans.
    Eur J Appl Physiol 113: 1605–1615, 2013.
  2. Behm, DG, Alizadeh, S, Anvar, SH, Drury, B, Granacher,
    U, and Moran, J. Non-local Acute Passive Stretching
    Effects on Range of Motion in Healthy Adults:
    A Systematic Review with Meta-analysis.
    Sport Med , 2021.Available from:
    https://doi.org/10.1007/s40279-020-01422-5
  3.  Freitas, SR, Mendes, B, Le Sant, G, Andrade, RJ,
    Nordez, A, and Milanovic, Z. Can chronic stretching
    change the muscle-tendon mechanical properties?
    A review. Scand J Med Sci Sport 28: 794–806, 2018.
  4. Henriques, IAD, Lattari, E, Torres, G, Moraes, G,
    Ribeiro, B, and Oliveira, R. Neuroscience Letters
    Can transcranial direct current stimulation improve
    range of motion and modulate pain perception in
    healthy individuals ? Neurosci Lett 707: 134311,
    2019.Available from:
    https://doi.org/10.1016/j.neulet.2019.134311