緊迫した試合の後半。
ダブルヘッダーの2試合目。

こういったときによく脚をつってしまう選手
いますよね。

そういった選手から
脚をつらないためのアドバイスを求められたら、
皆さんはなんて答えますか?

やはり『十分な水分と電解質の摂取』
最初にくるでしょうか。

もちろん『水分と電解質不足』も、
脚のつりの1つの間接的な要因だとは思います。

しかし近年の科学的な研究の結果は、
水分不足や電解質不足は、
脚のつりの主要因ではない
と結論づけています。

本日は、
Nelsonら(2016)のレビュー論文※1を参考に、
今現在脚のつりに関して分かっていることを
共有していきたいと思います。

脚のつりを引き起こす2大理論

スポーツ中の
脚のつり(正式には運動誘発性筋痙攣)の
主なメカニズムとして、
以下2つの理論が提唱されています。

①水分&電解質不足によるもの

②神経筋コントロールの変化によるもの

①の理論は、
今現在、広く知れ渡っている理論です。

  • 発汗により水分が失われることで、
    間質内のボリュームが減少すること。
  • 発汗によりNa、Ca、Mgが減少し、
    神経終末の活動に異常が生じること。

これらが組み合わさることで、
α運動神経が過剰に興奮し、
脚のつりを引き起こすというものです。

これは多くの教科書にも
記載されていることですし、
この理論を目にしたことのある人も
多いと思います。

しかし近年では,
この理論に疑問をもたらすデータも
多く出てきているようです。

決定的なところでいえば、
同じ運動を行ったときに
水分損失量が多い群と少ない群で比較して、
脚のつりの発生件数に群間で差がなかった
とする
データが多く存在するということ。

また、これは皆さんも経験上分かると思いますが、
脚のつりを引き起こしたときに
ストレッチで改善することも多い
です。
ちなみにこのレビュー論文の中でも
ストレッチは最も効果的な対処方法の1つ
とされています。

もし水分、電解質不足が主要因であれば、
ストレッチが最も効果的な対処方法というのも
理屈に合わないですよね。

そこで最近は
『神経筋コントロールの変化によるもの』
こちらの理論が受け入れられつつあります。

この理論では、根本的な主要因は、
筋への過負荷・疲労だとされています。

筋への過負荷&疲労
⇒筋紡錘&ゴルジ腱器官のバランスの乱れ
⇒α運動神経の過活動
⇒脚のつり
という理論です。

これだとストレッチの効果を説明するときも、
筋紡錘の働きすぎをリセットするから
と考えることでしっくりきますよね。

また、
冬場にも脚のつりは頻発することを考えると、
こちらの理論のほうが説明がつきます。

『水分&電解質不足』の理論が
根本から違うというよりは、
水分と電解質の不足
②の『筋疲労』につながる1つの間接的要因
と考えるほうが良いかもしれませんね。

予防法

先ほど述べた通り、
脚のつりの主な原因は『筋疲労』です。

当日にできる予防法といえば、
水分や炭水化物などの栄養補給くらいでしょうか。

根本的には結局、
『そもそもの体力(筋持久力、最大酸素摂取量)
をつける』

ということになりますよね。

ただ、
脚のつりにつながる1つの原因として
別に挙げられており、
なるほどと思ったのが、
『足関節、アキレス腱の傷害の既往歴』です※2

既往歴それ自体というよりは、
不十分なリハビリによる
患部周りの筋力の再獲得不足による
筋疲労の誘発が原因でしょう。

ここに心当たりがある場合は、
もう一度患部の状態を見直しても
いいかもしれませんね。

まとめ

脚のつりに関する選手へのアドバイス、
意外と「水分しっかり摂取しなよ!」で
終わらせている方もいたのではないでしょうか?

もちろんそれも1つの要因である
可能性もありますが、
やはり予防にとって重要なのは
日ごろからのトレーニングですよね。

執筆者:佐々部孝紀(ささべこうき)

参考資料

  1. Nicole L. Nelson , James R. Churilla
    A narrative review of exercise-associated muscle cramps:
    Factors that contribute to neuromuscular fatigue and
    management implications
    Muscle Nerve 54: 177–185, 2016
  2. Martin P. Schwellnus, MBBCh, MSc, MD,
    Sonja Swanevelder, MSc, Esme Jordaan, MSc
    Wayne Derman, MBChB, PhD,
    and Dina C. Janse Van Rensburg, MBChB, MMed, MD
    Underlying Chronic Disease, Medication Use, History of
    Running Injuries and Being a More Experienced
    Runner Are Independent Factors Associated With
    Exercise-Associated Muscle Cramping:
    A Cross-Sectional Study in 15778 Distance Runners
    Clin J Sport Med, 28(3):289–298, 2018