チームについている
アスレティックトレーナー(AT)や
治療院を経営している方であれば、
スポーツをやっている人のリハビリを
指導することはよくありますよね。

その際に重要なこととして、
リスク管理』が挙げられると思います。

チームのATであれば
試合への早期復帰と再発予防を考えながら、
至適な負荷をかけていく必要がありますよね。

負荷が低すぎても復帰が遅れるし、
過剰な負荷をかけてしまうことで
症状が増悪しても復帰が遅れたり、
最悪リハビリ中の再発のリスクが
高まってしまいます。

『至適な負荷』を見極める方法としては、
その時点での可動域の回復や筋力の回復の他に、
『そのエクササイズ自体での痛み』というものも
挙げられます。

リスク管理の方法として、
痛みの出るエクササイズを
やらないというのも安全策の1つではありますが、
傷害の種類によっては
痛みをある程度許容しながら
行うことが有効な場合もあるようです。

今回は、

『リハビリでは痛い動きはやってはだめ』は
本当か?

というテーマで
リハビリについて考察していきたいと思います。

腱炎へのエキセントリックエクササイズ

アキレス腱炎や膝蓋腱炎などの
腱炎のリハビリテーションにおいては、
手術やステロイド治療などに比べて、
エキセントリックエクササイズの介入が
効果的だと報告、提唱されています

しかしながら腱炎を患っている選手に
そのような運動を介入すると、
運動自体で痛みを感じる可能性がありますよね。

実はこれらの研究で行われているリハビリでは、
多少の痛みは許容して
実施している場合が多いです。

例えばLeeら(2020)の研究においては
膝蓋腱炎を患っている跳躍動作を伴う
球技選手を対象に
エキセントリックの片脚スクワットを
実施していますが、
痛みの基準を設けて、
それを基に負荷を設定しています。

この研究で用いている
エキセントリックの片脚スクワットでは
前方に傾斜をつけた台の上で
片脚スクワットの下降局面を2秒で実施し、
上昇動作は手すりにつかまった手と逆の脚で
行っています。

その際、動作中の痛みを
VAS(Visual Analog Scale)で10段階で評価し、
4~5以下なら保持する重りの重さを増やし、
6~7以上であれば重りを減らすといった形で
実施されています。

その結果、
傷害が再発するどころか被験者は痛みも減少し、
腱の伸張性も改善したことが報告されています。

傷害の特性を考慮する

ある程度の痛みを許容して実施可能だったのは、
腱炎という傷害の特性も要因です。

腱炎の受傷起点は急性外傷のように明確ではなく、
痛みも徐々に増してくる場合が多いです。

一方で、
肉離れなどの急性の外傷は
受傷起点が明確であり、
あまり予兆を感じていない状態でも
急に受傷する場合もあります。

ハムストリングの肉離れの
復帰基準に関する研究でも、
バリスティックな伸長を行ったときの
ROMや痛み・違和感がなくなってから
復帰をしたほうが再受傷のリスクが低いことが
報告されています。

また、腱炎であれば負荷を上げすぎても
翌日~数日痛みが増すだけですが、
肉離れをリハビリ中に再受傷してしまうと、
それで復帰までの期間が
数週間伸びる可能性も大いに考えられます。

そのため、
どのような怪我であっても
痛みを許容しながら
ガンガン進めていいというわけではないので、
その点は注意しておきましょう。

また、
腱炎と症状が類似している傷害もあるので
(足関節後方インピンジメント
 膝蓋大腿関節症等)
リハビリを行うときは
必ず正確な評価や医師の診断を基に
行うようにしてください。

まとめ

今回はリハビリも怪我の種類や進め方によっては
痛みを許容する場合があるという内容でした。

特に腱炎や肉離れの予防やリハビリ後期の強化は、
トレーニング指導者との連携も必須なので、
メディカル系のトレーナー以外にも
知っておいて欲しい内容です。

専門分野を深く理解するだけでなく、
他分野のことも広く理解する必要もあるので、
是非ポイントだけでも抑えておいてください!

参考文献

  1. Allison, GT and Purdam, C. Eccentric loading for
    Achilles tendinopathy – Strengthening or stretching?
    Br J Sports Med 43: 276–279, 2009.
  2.  Askling, CM, Nilsson, J, and Thorstensson, A.
    A new hamstring test to complement the common clinical
    examination before return to sport after injury. Knee Surgery, Sport Traumatol Arthrosc 18: 1798–1803, 2010.
  3. Lee, WC, Ng, GYF, Zhang, ZJ, Malliaras, P, Masci, L,
    and Fu, SN. Changes on Tendon Stiffness and
    Clinical Outcomes in Athletes Are Associated With Patellar
    Tendinopathy After Eccentric Exercise.
    Clin J Sport Med 30: 25–32, 2020.