「いかに傷害を予防するか」

これはトレーナーだけでなく、
コーチや選手も重要性を感じていることでしょう。

プロであれば年俸1千万円の選手が
怪我でシーズンをアウトしてしまうと
1千万円の損失。

選手の補充がきかない学生スポーツで
スタメンの選手が怪我をするというのも
大きな痛手でしょう。

怪我が少ないほど勝利につながるというのは
疑いようのない事実ですよね。

「怪我の数が少ないチームのほうが
サッカーのリーグ戦の順位が高かった」
ということも実際に報告されています(1)。

傷害予防の方法

では実際にスポーツ科学の世界で
効果が証明されている傷害予防の方法には
どのようなものがあるのでしょうか。

様々なアプローチが提唱されていますが、
大きく分けると

  • 身体を強くする
  • 正しい身体の使い方をする
  • 身体に負荷がかかり過ぎないようにする
  • 装具を活用する

この4つに分類されると考えられます。

上に挙げた4つのアプローチを考える前に、
傷害の発生するメカニズム
概念的に理解しましょう。

傷害というのは
筋、健、靭帯、骨などの
身体組織に外力が加わり、
その外力に組織が耐え切れずに
障害を受傷してしまいます。

その外力というのは
他の選手への接触であったり、
誤った接地の仕方をすることによる
ストレスであったり、
日ごろの練数で繰り返される
小さなストレスであったり…。

色々なストレスが考えられますが、
そのストレスの種類によって
傷害は以下の2つに分類されます。

急性外傷:1回の大きなストレス
受傷するもの
慢性障害:繰り返されるストレスの積み重なり
受傷するもの

他の選手の接触によって受傷する外傷の場合は、
トレーニングや練習前のエクササイズによる
予防は難しいかもしれません。

どちらかといえば
危険なプレーをきちんと取り締まる
審判の技量であったり、
危険なプレーをしないための
選手教育などが重要でしょう。

一方で、
慢性障害や接触を伴わない外傷などは、
共通して以下のようなメカニズムで発生します。

ミスユースまたはオーバーユース
もしくはその両方によって、
身体の組織に外力が発生し、
その外力に組織が耐え切れずに傷害を受傷する。

例えば非接触で発生する足関節捻挫の場合、
接地の仕方が悪く(例:足部の外側への荷重)、
足関節を内反方向に捻ってしまい、
そのストレスに足関節の外側の靭帯が耐え切れずに
損傷することも多いでしょう。

協働筋である臀筋がうまく働かず、
なおかつ地面を膝下でかくような
(膝の屈曲に頼った)走りをすることで、
ハムストリングの負担は増えるでしょう。
さらに練習量の急激な増加が伴えば、
疲労の蓄積に筋腱が耐え切れずに
肉離れを起こすかもしれません。

これらを防ぐためには共通して先ほど紹介した

  • 身体を強くする
  • 正しい身体の使い方をする
  • 身体に負荷がかかり過ぎないようにする
  • 装具を活用する

といったアプローチが必要になってきます。

捻挫を防ぐためには、
まずテーピングが思い浮かびますが、
それに加えてバランス能力の向上や
接地の仕方の改善が必要かもしれません。

肉離れを防ぐためには走り方の改善だけでなく、
筋腱の強化や練習量の調節も必要でしょう。

こう考えると、障害予防には、
自身の専門分野だけでなく、
幅広いアプローチが必要であることも
分かりますよね。

次回は実際に
各アプローチがどれくらい効果があるのかを
紹介していきます。

執筆者:佐々部孝紀(ささべこうき)

参考資料

  1. Eirale, C, Tol, JL, Farooq, A, Smiley, F,and Chalabi, H.
    Low injury rate strongly correlates with team success
    in Qatari professional football.
    Br J Sports Med. 2013, 47(12), 807-808