リハビリ期間中、選手に対しては
どのようにモチベーションを保たせますか?

「怪我して学べることもある」
「チームを外から眺めることで気づくこともある」
など、精神的な利点もあるでしょうし

「せっかくの機会だから
身体づくりをしっかりと行おう」
といったふうに、
患部外を中心としたトレーニング
平行して行うのもありですよね。

例えば、肘や肩を怪我している場合であれば、
下半身の強化は可能です。

バーベルを担げてスクワットができないにしても、
レッグプレスやヒップスラストなどの種目は
実施可能でしょう。

そのような
『トレーニングを積める部分の強化』
といった視点からも
患部外のウエイトトレーニングは必要でしょう。

しかし実はそれだけではなく、
患部のリハビリにも良い影響を与えうる
ということはご存知ですか?

ある部位のウエイトトレーニングが他の部位に与える影響

Bartolomeiら(2018)は、
上半身のウエイトトレーニングを行ったときに

  1. 下半身のウエイトトレーニングを
    高強度低ボリューム(4~5回5セット)
    中程度のレストで行ったとき
  2. 下半身のウエイトトレーニングを
    中強度高ボリューム(10~12回×5セット)
    短いレストで行ったとき

で上半身の筋力向上に違いがあるのかを
検討しました。

その結果、
下半身のウエイトトレーニングを
低ボリュームで行った群は
ベンチプレスの1RMの向上が
2.1%だったのに対して、
下肢のウエイトトレーニングを
高ボリュームで行った群は
7.2%と有意に大きな向上を示しました。

(Bartolomei et al., 2018より)

この研究では
下肢の高ボリュームトレーニングを
行った群
のほうが
有意に大きな上肢の筋肥大を起こしており、
筋力の向上もこの筋肥大に由来する
と考えられます。

このようなことが起きたメカニズムとして、
下半身の高ボリュームトレーニングを
行うことによる、
代謝ストレスが挙げられます。

以前の記事 でも紹介した通り、
筋肥大を引き起こすには

  • 機械的張力
  • 筋ダメージ
  • 代謝ストレス

が必要になります。

機械的張力と筋ダメージは、
トレーニングした部位に生じて、
その部位の肥大に関わると考えられる一方で、
代謝的ストレスは、
その代謝物質が全身を巡ることにより、
他の部位にも影響すると考えられます。

それが今回の研究の結果につながったのでしょう。

リハビリ中の選手に応用するとしたら?

この研究は、
上半身のウエイトトレーニングに
下半身のウエイトトレーニングが
与える影響
について
調べたものに過ぎません。

上半身をまったく使っていない状況で
下半身の高ボリュームなトレーニングを行っても、
特に効果は期待できませんよね。

しかしリハビリも、固定期間を過ぎれば、
一種のトレーニングを行います。
肩の脱臼であれば、可動域の訓練、
アイソメトリックなどのトレーニングなど。

その目的は
『可動域の回復』と
『筋力の向上(再獲得)』ですよね。

強度は低いものの、一種のトレーニングです。

また、萎縮した筋量の再獲得というのも、
メカニズムとしては健常者の筋肥大と同じ
ですよね。

そのような段階で下半身の高ボリュームな
ウエイトトレーニングを導入することは、
それらのリハビリの効果を促進することにも
つながると考えられます。

まとめ

「リハビリ中にも他の部位は動かせるんだから、
しっかりとトレーニングを行おう」
というのは、多くのトレーナーの方が
言っていることかと思います。

その『他の部位のトレーニング』が、
患部の回復にも関わると知ったら、
選手にとってはさらなるモチベーション
なりますよね。

リハビリ中の選手のトレーニングの
動機づけの知識として、
今回の情報を活用してみてください!

執筆者:佐々部孝紀(ささべこうき)

参考資料

Sandro Bartolomei, Jay Hoffman, Jeffrey Stout,
and Franco Merni
Effect of Lower-Body Resistance Training on
Upper-Body Strength Adaptation in Trained Men
J Strength Cond Res 32(1): 13–18, 2018