『力―速度曲線』

トレーニング指導者のカリキュラムを
履修していればおそらく出会うであろう言葉です。

みなさん、この言葉の意味を
しっかりと説明できますか?

この概念をトレーニング指導に
活かせていますか?

本日はこの『力―速度曲線』について解説し、
その概念のトレーニングへの活かし方について
説明していきます。

力―速度曲線とは?

力―速度曲線とは、
筋肉が収縮するときの力と速度の関係性です。

ざっくりと説明すると、

  • 大きな負荷に対して力を発揮するときは
    筋肉はゆっくりとしか収縮できない

  • 小さな負荷に対して力を発揮するときは
    筋肉は素早く収縮することができる

といったことを曲線的に表したものが、
力―速度曲線です。

力―速度曲線

図で示した用語は以下のようになります。

  • Fmax(V0)
    最大に発揮したときの力(Force)。
    このとき速度(Velocity)は0になる。
    =アイソメトリック収縮時の力。
  • Vmax(F0)
    極限まで負荷を小さくしたときの
    (理論上での無負荷の状態での)
    筋肉の収縮速度。
  • P1
    F1×V1のときのパワー。
    F1という負荷のときに最大努力で
    筋肉を収縮したときの速度はV1。
    パワーは力×速度なのでF1×V1となる。

ここで注意して欲しいのが、
自体重での最大努力での力発揮
(=全力での垂直跳び)は
Vmaxにはならない。

ということです。

さきほどの力―速度曲線について、
便宜的に下肢三関節での伸展で考えます。

下肢三関節の伸展で考えたときの力―速度曲線

アイソメトリックのスクワットでの
力発揮=Fmaxとなり、
その若干左がスクワットの1RMになります。

それよりも少し軽い負荷(3RMや5RM)になると
1RMよりも大きな速度で挙上できますよね?
曲線でいうと負荷が小さくなった分
(左にシフトしたぶん)
Vが大きくなったということです。

一方で、自体重であっても自分の体重分の
(正確には上半身、体幹等の重さの)
負荷がかかっています。
そのため垂直跳びのときの速度は
Vmaxの少し右になります。

また、自体重でのスクワットは、
垂直跳びと同じ負荷ですが、
最大努力での収縮ではないので、
力―速度曲線上には位置しません。

最大努力で収縮したら、
スクワットでおさまらずに
ジャンプになってしまうからです。

力―速度曲線はあくまで
最大努力で収縮したときの考え方です。

力―速度曲線の考えをトレーニングに活かす

この力―速度曲線、
どのような場面で役立つのかというと、
個人個人の能力の分析と、そこに合った
トレーニングプログラムの作成の基礎情報
なるのです。

下の図のように、人によって
大きな力を出すのが苦手だったり(赤線)、
大きな速度を出すのが苦手だったり(緑)します。

力―速度曲線の個人の特徴

この偏りは、垂直跳びとスクワットを測定し、
チーム内順位を比較したりすることで、
極端な人については把握することはできます。

例えば、
スクワット1RMの体重比が30人中2位なのに、
垂直跳びは30人中28位とかであれば、
速度不足だと予測できます。

実はこの曲線の隔たりを個別で評価する重要性は
科学的にも証明されており、
Reyesら(2017)は
速度不足の選手に
力を向上させるようなトレーニング、
(スクワットなど)
力不足の選手には
速度を向上させるような
トレーニング
(自体重ジャンプやアシステッドジャンプなど)
を行うことで、
従来のトレーニングよりもジャンプ力が向上した
ことを示しています。

ちなみに個人の力と速度のプロフィール
(≒力―速度曲線)は、
『MyJump2』というスマホアプリ
測定できます。

まとめ

『力―速度曲線』

言葉は知っているし、理論も知っていたけど、
トレーニングには活用できていなかった
という方も多いのではないでしょうか?

是非この知識を活かして
現場で活用してみてください!

執筆者:佐々部孝紀(ささべこうき)

参考資料

Pedro Jiménez-Reyes, Pierre Samozino, Matt Brughelli
and Jean-Benoît Morin
Effectiveness of an Individualized Training Based on
Force-Velocity Profiling during Jumping
Frontiers in Physiology, January 2017, Volume7, Article677