体力測定(フィジカルテスト)は多くのチームで
行われていますよね。

実はそれぞれの種目の特性について
理解しておかないと、選手の能力を見誤ったり、
トレーニング効果の判定に関して間違った判断を
くだしてしまうことも多々あります。

運動能力、運動技能、運動体力

体力測定だけでなく、各運動課題について
理解するためには、

  • 運動能力
  • 運動技能
  • 運動体力

その3つに加えて運動パフォーマンス、
パフォーマンス変数
について理解しておく
必要があります。

まずは下の図をご覧下さい。

(杉原, 2003)

この図で示した通り、運動能力の構成因子には、
運動技能運動体力が挙げられます。

運動体力とは
筋肉の力発揮能力や、最大酸素摂取量など、
生理学的に身体の組織がどれだけ力を出せるか
表したものです。

一方、運動技能とは、
身体をどのように動かすか
いったことになります。

どのような運動課題であっても、運動能力は
この運動体力と運動技能によって構成されます。
これはスクワットのような
筋力測定の課題であっても、
バスケットボールのフリースローのような
技術的な課題であってもです。

下肢の筋肉群がまったく同じ力を持っていても
(同じ運動体力でも)、
スクワットのフォームが違えば
(運動技能が異なれば)、
挙上できる重量(運動能力)は
変わってきますよね。

また、各運動課題で求められる
運動体力と運動技能の割合も変わってきます。

もちろんフリースローはスクワットに比べて、
運動技能の果たす役割は大きくなってきますよね。

体力測定では比較的この図の左側にあてはまる、
スクワット、スプリント、長距離走などの
運動課題を通して、
筋力、パワー、最大酸素摂取量などの
そこに対応する運動体力を推察しているのです。

一方で、5mダッシュ、ターンして10mダッシュ、
ターンして5mダッシュなどに代表される
アジリティのテストについてはどうでしょう?

これは図でも示している通り、
他の運動課題に比べると
運動技能が果たす役割は大きく
なりますよね。

例えば、握力とアジリティのテストをそれぞれ、
5回、6回と測定を行っていくと
記録はどうなっていくでしょうか?

おそらく、アジリティのほうが
『慣れ』により記録が良くなっていく
ことが推察されます。

これは、

  • アジリティのほうが握力に比べて
    運動技能が貢献する割合が高い
  • 慣れていない課題であれば
    運動技能はすぐに高まる
  • 運動体力はすぐには高まらない

などからこう考えられます。

実際に、
スプリントスピードよりもアジリティのほうが
チーム内での順位変動が激しかった
という
データもあります[2]。

アジリティなど
運動技能が大きく関与するテストに関しては、
毎月末に測定し、数値が向上していたとしても、
トレーニング効果が反映されているのではなく、
ただ慣れたから向上していっている可能性もある
ということです。

運動能力と運動パフォーマンス、
パフォーマンス変数

運動能力、運動技能、運動体力について
述べてきましたが、
実は運動能力がそのまま運動課題の測定数値に
現れるとは限りません。

以下の図のように、持っている運動能力に
いくつかのパフォーマンス変数が影響を及ぼし、
運動パフォーマンス(運動の結果、数値)として
表れます。

パフォーマンス変数とは、
運動パフォーマンスに影響を及ぼす
他のすべての要因
です。

分かりやすい例で言えば、疲労や気温です。

高い運動能力を持っていても
疲労というパフォーマンス変数のせいで
運動パフォーマンスを発揮できない
かもしれません。

持久系の運動課題(1500m走など)であれば、
気温が高いとパフォーマンスは発揮しづらい
でしょう。

1500m走を夏と冬に測定し、
冬のほうが記録が高くても、
運動体力、運動能力が向上したわけではなく、
ただ気温というパフォーマンス変数が
影響を及ぼしただけ
ということもあり得るのです。

まとめ

体力測定をするうえで、
運動能力、運動体力、運動技能、
パフォーマンス変数、運動パフォーマンスの
関係を理解しておくことは重要
です。

数値が向上、低下したように見えても、それは
運動体力が変化したわけでなく、
運動技能が慣れで向上した、
パフォーマンス変数が影響を及ぼした、

という場合が多々あるからです。

体力測定は数値を出すことだけでなく、
その数値をどう読み取るかが大事
です。

是非今回の内容を参考にしてみてください。

執筆者:佐々部孝紀(ささべこうき)

参考資料

  1. 杉原 隆.
    運動指導の心理学-運動学習とモチベーションからの接近-
    大修館書店,2003
  2. Hirose, N and Seki, T.
    Two-year changes in anthropometric and motor ability values
    as talent identification indexes in youth soccer players.
    J Sci Med Sport 19: 158–162