以前の記事の中で、
ROMを構成する要因として
筋腱スティフネスが挙げられることを
紹介しました。

筋腱スティフネスとは、
力を加えて筋腱が伸長したときの
力の変化に対する筋長や関節角度の変化率、
言い換えると筋の伸びづらさの指標になります。

スティフネスが高いということは
筋腱が伸びづらいということになりますし、
スティフネスが低いということは
筋腱が少しの力で
大きく伸びるということになります。

ここでポイントになってくるのが
筋腱スティフネスは
筋スティフネスと腱スティフネスによって
構成されているということ。

なんらかの介入によって
筋腱スティフネスが変化したとき、
それが筋スティフネスの変化によるものなのか、
腱スティフネスの変化によるものなのかによって、
筋腱の特性やパフォーマンスに与える影響は
違ってきます。

今回はその中でも腱スティフネスに焦点を当てた
研究を紹介していきます。

トレーニングが腱スティフネスに与える影響

トレーニングの介入は筋だけでなく
腱にも影響を与えます。

今回は
トレーニング腱のスティフネスと
ランニングエコノミーに
どのような影響を与えたかを検証した
研究を紹介します。

この研究では
週3回以上の練習を積んでいる
長距離走の競技者を対象に

①アイソメトリックな
    足関節底屈トレーニングを行う群(介入群)

②トレーニングを行わない群(コントロール群)

2つの郡に分け、
介入前後での筋の特性と
ランニングエコノミーを測定しました。

ランニングエコノミーは
一定の速度(秒速3.0mと秒速3.5m)で
走行したときの酸素摂取量から算出しています。

ランニングエコノミーとは、
いかに少ない酸素摂取量で
走行できるかという指標で、
車に例えると燃費にあたります。

その結果、介入群において

  • 腱スティフネスの増加
  • ランニングエコノミーの向上

2点が認められました。

まとめ・考察

ランニングを行う時には
足関節はあまり大きな関節運動を起こさず、
アイソメトリックに近い活動で
股関節・膝関節で生み出したエネルギーを
地面に伝えます。

その時、
アキレス腱のスティフネスが低く伸長しやすい場合、
関節を固定するために代償として
下腿三頭筋がコンセントリックの収縮をする
必要があります。

今回の研究においては
腱のスティフネスが増加したことにより、
無駄な筋肉の収縮が抑えられ、
その結果ランニングエコノミーが向上したと
考えられています。

腱のスティフネスが増加するということは、
筋腱全体でのスティフネスも
増加していると考えられます。

つまり、いわゆる『足首の硬さ』が
競技によっては
ポジティブに働いていることもあるということです。

一方で筋スティフネスの低下が
ランニングエコノミーの悪影響を及ぼすかというと、
その点は明らかにはなっていないので、
もしかしたら腱は硬く、
筋は柔らかいほうが
様々な競技パフォーマンスに対して
ポジティブに働く可能性もあります。

筋腱複合体の柔軟性を評価するときも
筋と腱、それぞれどちらの変化が起きたかによって
競技パフォーマンスに与える影響も
変わってくるので、
このあたりの違いも抑えておきましょう!

参考文献

  1. Albracht, K and Arampatzis, A. Exercise-induced changes in
    triceps surae tendon stiffness and muscle strength affect
    running economy in humans. Eur J Appl Physiol 113:
    1605–1615, 2013.
  2. Exercise-induced changes in triceps surae tendon stiffness and
    muscle strength affect running economy in humans.
    Albracht and Arampatzis (2013)