前回の記事では、
側方へのサイドステップ動作においては、
股関節外転のトルクよりも股関節をはじめとした
下肢三関節の伸展トルクが重要だということを
示唆する研究を紹介しました。
今回はそれとは対照的に、
前額面上の動作とそれをコントロールする
筋肉の重要性について紹介していきます。
パフォーマンス発揮の側面
前回の記事で紹介した研究では、
サイドステップ(側方へのジャンプ)の距離が
遠くなるほど、股関節、膝関節、
足関節の伸展・底屈トルクが増大するものの、
股関節外転トルクには変化が見られなかった。
↓
素早い側方への切り返しには、
股関節外転筋の力発揮よりも、
股関節をはじめとした下肢三関節の
伸展トルクが重要である可能性がある。
といったことを紹介しました。
今回は逆に、
前額面上の力発揮の重要性を示唆した研究を
紹介します。
Sadoら(2019)は90度のカッティング動作を
なるべく速く被験者に実施させ、
股関節、腰部の三平面(矢状面、前額面、水平面)
のトルクなどを測定しました。
その結果、特に大きなトルク、
力積が観察されたのは、
遊脚側の体幹側屈トルクだったことが
示されました。
これがどういうことかと言うと、
例えば左脚で切り返しの脚を踏んで
右に方向転換をする場合、
図の薄い青の矢印のような
床反力(GRF)が身体に加わり、
その力で身体は左方向に回転が加わります。
そのままだと身体が左に倒れてしまい、
効果的に右への方向転換が出来ないので、
この研究で示された通り、
腰部の側屈トルクが働いたのでしょう。
主に活動したと考えられる筋は、
右の内・外腹斜筋や脊柱起立筋など(図の赤丸)
ですね。
このように、
前回示した研究内容だけで考えると、
前額面上の動きであっても
矢状面の動きである股関節などの
伸展トルクが重要、
と捉えられるのですが、
視点を変えてみると(着目する関節を変える、
研究で測定する指標を変えると)、
逆に前額面の力発揮の重要性も分かるんですね。
傷害予防の観点
これはトレーナーとして現場で指導、
特に傷害予防の観点で、
選手をサポートされている方の場合は、
既知のこととは思いますが、
膝関節の外傷予防においては、
股関節の前額面上の動きの
コントロールは重要です。
特に膝関節の外反、
ニーインの動きは、
前十字靭帯損傷のリスクだと
言われているのですが(1)、
その膝関節の外反の動きを
制動すると考えられるのが
股関節外転筋群です。
股関節が外転をすると、
間接的に大腿骨遠位の膝関節にも影響を及ぼす
と考えられるため、
現場でも傷害予防のエクササイズの1つとして、
中殿筋のエクササイズは多く用いられますよね。
そしてただ中殿筋を鍛えるだけではなく、
そこを使った動作の
コントロールの習得も重要なので、
そこと繋げて片脚のエクササイズを
実施することなども非常に重要
だと考えられます。
まとめ
前回の記事とは逆に、
前額面上の動きのコントロールの重要性
について解説しました。
単一の研究でその重要性が否定されていても、
異なる視点で見れば重要だった
ということも多々あります。
もっと単純に考えれば、
トレーニングの5原則の1つ
「全面性」に基づけば、
特定の部位だけではなく、
全身バランス良く鍛えていくことが大事。
ということですね。
偏ったトレーニングにならないよう、
今一度一歩引いた視点でトレーニングプログラムを
見返してみてはいかがでしょうか?
執筆者:佐々部孝紀(ささべこうき)
参考資料
- Hewett, TE, Myer, GD, Ford, KR, Heidt, RS,
Colosimo, AJ, McLean, SG, et al.
Biomechanical measures of neuromuscular control
and valgus loading of the knee predict anterior
cruciate ligament injury risk in female athletes:
A prospective study.
Am J Sports Med 33: 492–501, 2005. - Inaba, Y, Yoshioka, S, Iida, Y, Hay, DC,
and Fukashiro, S.
A Biomechanical study of side steps at different
distances.
J Appl Biomech 29: 336–345, 2013.
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