バランス、アジリティ、パワー、持久力、、、
競技スポーツにおいて、これらの体力要素の向上が
パフォーマンスの向上に貢献することは
間違いありません。
各要素の向上の手助け、そのためのトレーニング指導は
トレーナーの役割の1つです。
そのためトレーナー(S&C、トレーニングコーチ)は
いかにして各要素を効率的に向上させていくかを考え、
トレーニングプログラムを組まなければなりませんよね。
一方で、
「持久力トレーニングは筋力向上を阻害する」
といったことを以前の記事ではお伝えしました。
このように、
特定のトレーニングが特定の体力要素に及ぼす
負の影響を把握しておくことも、
各体力要素を効率的に向上させていくうえでは
重要になってきます。
実はその持久力トレーニングと筋力の関係のように、
「ある体力要素の向上を目的としたトレーニングが
他の体力要素に負の影響を与える」
といったものは他にもあるのです。
10週間の不安定面上での下肢のトレーニングが身体能力に与える影響
THE EFFECTS OF TEN WEEKS OF LOWER-BODY
UNSTABLE SURFACE TRAINING ON MARKERS OF
ATHLETIC PERFORMANCE
E.M.Cressey et al, 2007
この研究では、19人の大学サッカー選手を
安定群 :すべてのトレーニングを安定面(普通の地面)で行う群
不安定群:一部のトレーニング(ランジなど)を不安定面(ディスク状のもの)で行う群
に分けてトレーニングを行い、
その後の体力測定の数値の変化を見ています。
研究の背景としては、
【不安定面でのトレーニング】
⇒バランス能力向上
⇒パフォーマンス(身体能力)向上
といった考え方もあるが、
【不安定面でのトレーニング】
⇒バランスをとることに筋肉を使ってしまい、効率的な筋力発揮ができなくなる
⇒パフォーマンス低下
といったことも起こり得るのでは?
といった疑問がありました。
なので、ひとまず両方試してみて実際に測ってみた
というわけですね。
以下、結果になります。
トレーニング前後の数値の変化率
(変化⊿%) | 垂直跳び高 | 40y走タイム | Tテストタイム |
安定群 | 2.4%↑* | -3.9%↑* | -4.4%↑* |
不安定群 | 0%→ | -1.8%↑* | -2.9%↑* |
*・・・・トレーニング前と比べて有意に向上(p<0.05)
赤・・不安定群と比べて有意に向上(p<0.05)
表の通り、
特に垂直跳び高と40 y(ヤード)走のタイムにおいて、
安定群では不安定群よりも有意な向上を示しました。
この研究では、
筋電図による筋活動の測定などを行ってないのですが、
Anderson and Behm (2004)は別の研究で、
不安定面と安定面でのトレーニングを比較し、
主働筋の筋活動量は2つの条件に差はなかったものの、
不安定面では出力が低下していた
=不安定面では非効率的な力発揮をしていた
ということを明らかにしています。
おそらく、上の表で示したCresseyらの研究でも
バランスをとることに筋肉を使ってしまった結果、
非効率的な力発揮がクセづいてしまい、
パフォーマンス向上が妨げられたのだと考えられます。
また、一部のトレーニングではありますが、
不安定面でトレーニングを行うことで
扱える重量が減ったから、といった可能性もあります。
一方でTテスト(アジリティ)においては
安定群、不安定群で有意差は認められていません。
これはもしかしたら「非効率的な力発揮」という
ネガティブな効果があった反面、
Tテストにおいては垂直跳びや40y走よりも
「バランス能力」の貢献が大きく、
そのポジティブな効果によってネガティブな面が
相殺されたのかもしれません。
終わりに
今回の研究では
パフォーマンス向上を目的としたトレーニングに、
バランス能力向上のための不安定面を用いると、
パフォーマンス向上を阻害する
といったデータをご紹介しました。
しかしながら足関節内反捻挫の予防のために
不安定面を用いることは有効でしょうし、
不安定面でのトレーニングは必ずしも悪だと
言っているわけではありません。
どのようなトレーニングにも、
必ずメリットとデメリットはついてくるもの。
メリットだけでなくデメリットまで
きちんと把握することは、
効果的なトレーニングプログラムを作成するうえで
非常に重要です!
参考文献
ERIC M. CRESSEY, CHRIS A. WEST, DAVID P. TIBERIO,
WILLIAM J. KRAEMER, AND CARL M. MARESH
“THE EFFECTS OF TEN WEEKS OF LOWER-BODY UNSTABLE
SURFACE TRAINING ON MARKERS OF ATHLETIC PERFOR-
MANCE
Journal of Strength and Conditioning Research, 21.2 (2007), 561–67
<https://doi.org/10.1227/01.NEU.0000166663.98616.E4>.
KENNETH G. ANDERSON AND DAVID G. BEHM
MAINTENANCE OF EMG ACTIVITY AND LOSS OF FORCE
OUTPUT WITH INSTABILITY
Journal of Strength and Conditioning Research, 2004, 18(3), 637–640
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