「力積」「パワー」これらの物理学的な言葉、
トレーナーとして活動していると
耳にする機会は多いと思います。

筋力というのは
アスリートにとって非常に重要な体力要素です。

しかしながら筋力を高めるだけでは
パフォーマンス向上には繋がらないという話は
聞いたことがあるかと思います。

そして筋力をパフォーマンスに繋げるために、
これら「力積」や「パワー」への理解が
必要になるのです。

本日はこれらの言葉の定義を抑えて、
トレーニングへの理解を一層深めていきましょう!

パワーと力積

パワーというのは
力×速度によって算出される仕事率のことです。

このパワー発揮には

  • 大きな力×小さな速度のパワー発揮
    (例:高重量のスクワット)
  • 中程度の力×中程度速度のパワー発揮
    (例:クイックリフト)
  • 小さな力×大きな速度のパワー発揮
    (例:自体重のジャンプ)

3つの種類があることは
以前の記事でもお伝えしました。

いくら筋力が上がっても、
筋肉を素早く収縮することが出来なければ
スポーツの中での素早い動きに繋がりません。

そのため、
ただ重たい重さでトレーニングをするだけでなく、
パワーを高めるような大きな速度を伴った
トレーニングが必要になってくるのです。

一方で、
力積というのは力×時間
(その力を加え続けた時間)です。

投球動作であれば投げる物体に、
ジャンプ動作であれば自分自身の身体に
大きな力積を加えることが出来ると、
投射速度(離地時の重心速度)が速くなり、
速い球を投げることが出来たり、
高く跳べることが出来ます。

先ほど計算式からも分かる通り、
力積を大きくするには力を大きくする方法、
力を加える時間を長くする方法
(もしくはその両方)があります。

重たい台車を前方向に
数秒間押して離すといった場面を想像すると
分かりやすいかもしれません。

同じく2秒間台車を押して離す場合でも、
より強い力で押して離したほうが
台車の進むスピードは速くなります。

一方で、同じ力で台車を押して離すとしても、
2秒間だけ押して離すより、
4秒間しっかり押して離したほうが
台車はより速く進みますよね。

力を大きくしているパターンだと、
もちろん発揮しているパワーも大きくなります。

しかしながら押す時間を長くするパターンだと、
発揮しているパワー自体は
そこまで変わりませんが、
物体が進むスピードは速くなりますよね。

こういった違いがスポーツ動作でも起こるため、
パワーと力積は分けて整理する必要があるのです。

時間を長くして力積を大きくする戦略

先述した通り、
力を大きくして力積を大きくする戦略をとる場合、
筋力やパワーの向上のための戦略と比べて
やることはあまり変わりません。

一方で力を加える時間を長くすると
いった戦略をとる場合は少し違った
アプローチになります。

分かりやすい例で言うと、投球動作でしょう。

投球動作は物体に力を加えるため、
腕をテイクバックしてから加速させる
必要があります。

そのテイクバックの幅が小さいときより
大きいときのほうが、
加える力やパワーが同じであっても、
力を加える時間は長くなります。

その結果、
投球速度が増加することも考えられます。

運動前のスタティックストレッチは
力発揮やパワー発揮を減少させると
報告されており、
メタアナリシスでも
ジャンプ力や筋力の低下が認められてますが、
投球動作においては
パフォーマンスの低下が報告されていません。

これは、
力の低下が起きたものの
それを補う可動域の増加≒力を加える時間の増加が
起きたからかもしれません。

逆に力の低下を起こさないように
可動域の増加を引き起こすと、
投球スピードが向上することは
十分に考えられるでしょう。

まとめ

今回はパワーと力積について解説しました。

知られているようで
意外と理解することが難しく感じる物理的な用語。

ここの理解を深めるだけでも
トレーニングに関する理解は大きく深まるので、
ポイントを抑えておきましょう!

参考文献

  1. Simic, L, Sarabon, N, and Markovic, G.
    Does pre-exercise static stretching inhibit maximal
    muscular performance? A meta-analytical review.
    Scand J Med Sci Sport 23: 131–148, 2013.