前回の記事ではアジリティという言葉の定義に
ついて紹介しました。

刺激に対して反応し、
素早く速度・方向を転換する能力
(Sheppard and Young, 2006)
という形で定義され、その構成要素に
『知覚・意思決定要素』『方向転換スピード』
あるといった内容でした。

あくまでも『スポーツ科学の世界では』という
前提つきですので、この定義がスポーツ現場でも
絶対というわけではありませんが、
アジリティの本質を理解するうえでは
重要な定義です。

今回の記事では、
『知覚・意思決定要素』と『方向転換スピード』
それぞれの高め方を紹介していきます。

知覚・意思決定要素の高め方

知覚・意思決定要素に関して、
スポーツ現場で行えるものとして考えられるのは、
反応課題を含んだアジリティドリルでしょう。

例えば、選手が真っすぐ走ってきたところで
正面に立つトレーナーが左右どちらかに指をさし、
その方向にカッティングをする課題など。

しかしながら、このような単純な反応課題は
実際のスポーツパフォーマンスへの関連は薄い
されています。

Youngら(2011)は、

  1. スクリーンに映し出される矢印の方向に
    カッティングする課題
  2. スクリーンに映し出される相手選手のビデオに
    反応してカッティングする課題

を被験者に行わせて、
①の課題に関しては
競技レベル別で
パフォーマンスの差がなかったのに対して、
②の課題においては
競技レベルが高かった選手のほうが
高いパフォーマンスを示した
報告しています。

つまり、
アジリティに必要な知覚・意思決定要素は、
矢印などの単純な課題への反応スピードではなく、
相手選手の姿勢など、いかに競技に必要な情報を
読み取り反応するかだと言えます。

Serpellら(2011)は
相手選手の動きを録画したビデオを用いた
視覚的なトレーニングで、
競技に必要な情報を読み取る能力、
その情報を読み取ったうえでの
アジリティのパフォーマンスが
向上したことを示しています。

しかし一般的なスポーツ現場では
そのようなアプローチはなかなか難しいですよね。

となると、やはり実際の対人形式の練習が、
アジリティに必要な知覚・意思決定要素を鍛える
1番のトレーニングになると言えます。

方向転換スピードの高め方

次に、方向転換スピードの高め方についてですが、
上記の図に示してある通り

  • 身体の形態(主に体組成)
  • 下肢の筋機能(筋力やパワー)
  • 直線スピード
  • テクニック

の改善、向上で高めることができます。

まず最初に、
『今高めたいアジリティが
どのような方向転換動作を含むのか?』
といったことを明確にする必要があります。

以前の記事でも紹介した通り、
アジリティを評価するための
方向転換スピードのテストは非常に多く、
各テストによって求められる動作は
大きく違ってきます。

例えば、10m×5というテストでは、移動に
スプリント動作を用います。
一方でTテストでは、移動の大部分は
サイドステップ(シャッフル)動作を用います。

そのため、各テストに必要な
『直線スピード』が異なるということになります。
Tテストにおいては
方向転換のテクニックを高めることはもちろん、
サイドステップのスピードを高める必要がある
ということです。

テクニックにおいてはどのテストでも共通して、
いかに効率よくブレーキをかけ、
素早く加速できるかが重要になってきます。
そのためには

  • 体幹の傾斜
  • 足の接地位置のコントロール
  • 重心の低下

などのテクニックをバランスよく用いることが
必要です。

まとめ

今回の記事ではアジリティを高めるために
把握しておかなければならない概念の大枠を
紹介しました。

是非トレーニングプログラム作成のためのヒントに
してみてください。

執筆者:佐々部孝紀(ささべこうき)

参考文献

  1. J. M. Sheppard & W. B. Young
    Agility literature review: Classifications, training and testing
    Journal of Sports Sciences, September 2006; 24(9): 919 – 932

  2. Young, W, Farrow, D, Pyne, D, McGregor, W, and Handke, T.
    Validity and reliability of agility tests in junior Australian
    football players.
    J Strength Cond Res 25(12): 3399–3403, 2011

  3. Serpell, BG, Young, WB, and Ford, M.
    Are the perceptual and decision-making components of
    agility trainable? A preliminary investigation.
    J Strength Cond Res 25(5): 1240–1248, 2011