SNSの発達により
様々なトレーニングについて知ることが
できるようになってきましたよね。

豊富なエクササイズの動画を
簡単に閲覧できることはもちろん
トレーニングの『考え方』についても
様々なものに触れることができます。

そんな中で時々話題になるのが
『動作の質を上げる』vs『筋力を高める』
ということ。

結論から言うと、そんなものどっちも大事です。

例えば
スクワットの『フォーム』『重さ』
どっちが大事かなんて質問には意味がなくて、
そんなの
「良いフォームのまま重さを上げていく」のが
正解ですよね。

ただ、トレーナーによって

  • いいフォームとはどんなフォームか?
  • ぎりぎりの重さを攻めたときのフォームの崩れを
    80点まで許容するのか、95点以上を求めるのか

などは違ってくるとは思いますが。

このブログではたびたび
『筋力を高めることの重要性』
紹介してきていますが、
では
『動作の質』
について、現在の科学的知見は何を示しているのか?

今回はそういったことを説明していきます。

動作の質の指標の代表―FMS-

動作の質を表す指標・チェックツールとして
『FMS(Functional Movement Screening』
(Grey Cook, 2010)が有名です。

これは
複数の全身運動課題身体の一部分のモビリティ
全7項目、3点ずつで評価し、
21点満点中何点だったかを示すものです。

詳しい方法の解説などはここでは省きますが、
点数が低いほど動作の質が悪く
怪我をしやすいとされています。

また
スクリーニングのカットオフのポイントとしては
14点が推奨されています(Kiesel et al., 2007)。

しかし
最近のシステマティックレビューでは
FMSの傷害予防効果は十分ではない
結論づけられたりもしています(Moran et al., 2017)。

しかし
これは著者も述べている通り
メタアナリシスを行うための研究数が
十分でなかった
ことに由来します。

また
FMSを実施するときに評価者によって
得点が変わってくるであろうことも
FMSについての研究が傷害の予測効果を
示したり示さなかったりするこ
との
原因だと考えられます。

今後もFMSに関する研究はされていくでしょうから
これからの報告に期待ですね。

活用方法

FMSについて学ぶことは
多くの知識や考え方を身に着けることに
つながるでしょう。

FMSをそのまま取り入れるのも良いでしょう。

また

  • FMSの特性や科学的なデータを理解して、
    FMSの一部を取り入れる
  • 自分のチームに合った形でアレンジをする

といったことも良いと思います。

ディープスクワット、インラインランジなど
様々な種目があるのですが、その中でも特に
ディープスクワット(オーバーヘッドスクワット)
是非活用したい種目の1つです。

オーバーヘッドスクワット
バーを頭上に持ち上げた状態で、
ボトムの位置までスクワットができるか、
といったスクリーニングになります。

実はFMSは合計点による傷害予防効果だけでなく
テストごとの得点と、傷害やパフォーマンスとの
関連の研究
もなされています。

Kieselら(2011)はFMSスコアの変化について
検討したところ、
オーバーヘッドスクワットのスコアが
その後の21点満点の変化に
1番多く影響を与えたとしています。

オーバーヘッドスクワットは

  • 足関節背屈
  • 股関節屈曲
  • 胸椎伸展
  • 全身の動作パターン

と、アスリートに必要な要素が盛沢山なテストです。

また、
Chapmanら(2014)は傷害との関連ではなく、
FMSのスコアと陸上選手の記録の向上について
検討しています。
その結果、
オーバーヘッドスクワットの点数の高い選手のほう
その後の記録の向上が見られたと報告しています。

まとめ

以上の理由から、
私はFMSそのものの活用はしていないのですが、
オーバーヘッドスクワットに関しては
重要な種目としてトレーニングの中に
位置づけています。

それは
筋力という『運動体力』を高めるためというよりは、
アスリートに必要な動作パターンという
『運動技能』を高めるためにです。

このように各トレーニングの目的を整理するうえでも
前回紹介した
『運動体力』『運動技能』を理解しておくことは
必要ですよね。

執筆者:佐々部孝紀(ささべこうき)

参考資料

  1. Grey Cook
    Movement: Functional Movement Systems:
    Screening, Assessment, Corrective Strategies. 2010
  2. Kiesel, Kyle, and Hall, Wallace Graves
    Can serious injury in professional football be predicted by
    a preseason functional movement screen?.
    North american journal of sports physical therapy, 2:3, 2007
  3. Kiesel, K., Plisky, P., and Butler, R.
    Functional movement test scores improve following
    a standardized off-season intervention program
    in professional football players.
    Scandinavian Journal of Medicine and Science in Sports,
    21:2, 287-292, 2011
  4. Moran, Robert W., Schneiders, Anthony G., Mason, Jesse,
    and Sullivan, S. John
    Do Functional Movement Screen (FMS) composite scores
    predict subsequent injury?
    A systematic review with meta-analysis.
    British Journal of Sports Medicine, 51:23, 1661-1669, 2017
  5. Chapman, Robert F., Laymon, Abigail S., and Arnold, Todd
    Functional movement scores and longitudinal performance
    outcomes in elite track and field athletes.
    International Journal of Sports Physiology and Performance,
    9:2, 203-211, 2014