上肢や下肢の筋力の左右差
指導時にはやはり気になりますよね。
そこを矯正するのに時間を費やすべきか、
ある程度は許容するのか。

今日はそこに関する科学的知見を
紹介していきます。

パフォーマンスへの影響

下半身の筋力の左右差が大きいと、
なんとなくパフォーマンスには
マイナスなイメージですよね。

一方で
ウサイン・ボルト選手は
左右不均等な動きで走っていることなども、
いくつかのメディアで取り上げられています。
(The New York Times, 2017)

もちろん、ボルト選手の真似をして
左右不均等な走りをしたからといって
タイムが良くなるとも限りません。
(なんならパフォーマンスが落ちる
可能性もあるでしょう)

スプリントとは異なりますが、
ジャンプ力に左右差が与える影響についての
研究を紹介します。

Baileyら(2013)は、
両足で力発揮をしたときの左右差の大きさと、
垂直跳びの高さの関連性について調べました。

その結果、
両足での力発揮で左右差がない被験者ほど、
ジャンプ力が高かったということが
報告されています。

そのため、
ウエイトリフティングなど、
左右均等な力発揮が求められるような競技では、
力を出すときの左右差は
ネガティブに働くと考えられます。

バレーボールも両足でジャンプをする競技なので、
もしかしたら
左右差がネガティブに働くかもしれません。

一方でスプリントやアジリティのように、
左右の脚を別々に力発揮する課題では、
筋出力の左右差とパフォーマンスに
関連性を示さなかったようです
(Lokie et al., 2014)。

一方で
左右差があるほうが良いパフォーマンスを
発揮するということも示しませんでした。

ボルト選手の例もありますし、
そこは各選手の技術なので一概に
どちらが良いとは言えないようです。

傷害への影響

上肢に関しては、
ラケットスポーツのような片側性のスポーツでは
利き手の握力は大きくなるでしょう。

それが
何らかの障害につながるとは考えづらいので、
無理に左右差を埋める必要性はない
のではないでしょうか。

一方で下肢の力発揮の左右差が大きい場合
それが荷重の偏り、脊柱の側弯などにつながると
腰痛のリスクになるでしょうし
荷重がかたよった側の膝や足に負担がかかると
その部分の障害にもつながるかもしれません。

実際、前回の記事でも紹介したFMSでは
「片側ずつ実施するテストに左右差があると
傷害が増えるのでは?」
といった仮説に基づいて
左右差の改善に関する研究も行われてきています。
(Kiesel et al., 2011)

前十字靭帯のリハビリでは
左右の膝屈曲伸展の筋力の差をなくしていくことは
一般的ですし、現場での感覚としても
そこが改善しないとパフォーマンスは
戻ってきませんよね。

まとめ

左右差とパフォーマンスの関係については、
必ずしも左右差があるからといって
パフォーマンスが悪くなるとは言えないようです。

一方で傷害との関係性に関しては、
左右差が広がりすぎると
片方に無理な負荷がかかると考えられます。

どの程度の左右差だと改善すべきなのか、
左右差は少しも許容しないのか、
そのあたりは
各選手状況、トレーナーの判断によるでしょう。

科学的知見も活かしながらも、
最後は個々人の状況をきちんと評価すること
必要です。

執筆者:佐々部孝紀(ささべこうき)

参考資料

  1. Jeré Longman
    The New York Times
    July 20, 2017
    https://www.nytimes.com/2017/07/20/sports/olympics/usain-bolt-stride-speed.html
  2. Bailey, Chris, Sato, Kimitake, Alexander, Ryan,
    Chiang, Chieh-ying, and Stone, Michael H
    Isometric force production symmetry and jumping
    performance in collegiate athletes.
    Journal of Trainology, 2, 1-5, 2013
  3. Lockie, Robert G., Callaghan, Samuel J., Berry, Simon P.,
    Cooke, Erin R.A., Jordan, Corrin A., Luczo, Tawni M.,
    and Jeffriess, Matthew D.
    Relationship between unilateral jumping ability
    and asymmetry on multidirectional speed
    in team-sport athletes.
    Journal of Strength and Conditioning Research,
    28:12, 3557-3566, 2014
  4. Kiesel, K., Plisky, P., and Butler, R.
    Functional movement test scores improve following
    a standardized off-season intervention program
    in professional football players.
    Scandinavian Journal of Medicine and Science in Sports,
    21:2, 287-292, 2011