前回の記事では
『介入研究』と『観察研究』の違い、
観察研究の中にも
『後向き研究』と『前向き研究』があることを
紹介しました。

「シーズン頭に選手の可動域を測定して、
ある可動域が狭いほど傷害の発生率が高かった」
というデータを示した研究があるとすれば、
あらかじめその可動域を改善することで
その傷害を防ぐことが出来るかもしれませんよね。

(もちろん、そのことを立証するには
その可動域を改善させたらどうなったかを示す
介入研究のデータもあればベストですが)

このような手法で明らかにされているのは、
特定の可動域と傷害発生の関係だけでは
ありません。

『動作の質』と傷害発生の関係性についても、
ここ20年ほどで多くの研究がなされています。

動作の質と傷害発生の関係性

片脚着地で膝が内側に入ってしまったり、
着地でバランスを崩して
足関節を内反してしまったり、
前十字靭帯損傷や足関節捻挫など
それぞれの傷害には特異的な受傷起点があります

競技中にそのような動きをしやすい選手は、
ある動作課題を遂行したときに
特徴的な動きをする場合があります。

例えばシーズン前のスクリーニングで
片脚の着地動作を分析したところ、
膝関節の屈曲角度が浅く、
外反角度が大きい選手ほど
シーズン中の前十字靭帯損傷のリスク
高かったことが明らかになっています(文献1)。

こういった特定の傷害に対して
リスクになる動作が明らかになっている一方で、
「スポーツにおいて受傷のリスクのある傷害は
1つだけではないので、様々な怪我のリスクを
包括的に評価できたほうが良いよね」
という考えのもと、複数の基本的な動作の質と、
様々な傷害のリスクを比較した研究も
行われています。

その中でも有名なものの1つが、
Functional Movement Screening(FMS)です。

FMSでは
各関節の可動性や安定性を評価する4つの項目と
全身の動きを評価する3つの項目、
それぞれ3点満点の7項目計21点で
身体の可動性・安定性・動作の
質の評価を行うテストです。

このFMSを用いた研究は多く発表されています。

初期の研究(文献2)では、
サッカー選手においてシーズン前の
スクリーニングを行った結果、
傷害を受傷した選手ほど有意に点数が低く、
統計的に分析すると
14点というカットオフ値を下回った場合
傷害受傷のリスクが高くなることが
示されています。

一方でそれを追随する研究においては、
片脚でのハードルまたぎが出来ない選手ほど
足関節の捻挫が多い、
オーバーヘッドスクワットで深くしゃがめない
選手ほど膝の外傷が多いなど、
7項目の合計点数よりも
各傷害と各テストの点を個別に関連づけたほうが
良いとする結果や(文献5)、
FMSの点数では傷害発生のリスクを
適切に評価できなかったとする研究も
発表されています(文献3)。

このように、FMSにて
傷害発生の予測効果が認められなかったことの
原因の1つに、評価結果の簡略化が考えられます。

例えばFMSの結果では、
オーバーヘッドスクワットを評価するにしても、
0~3点の点数付けがなされるだけです。

胸椎が伸展出来ずに
上肢のポジションが悪かったからなのか、
足関節の背屈可動域が狭く深さが出なかったのか、
膝が内側に入ってしまったのか、
それらがまとめて0~3点という点数に
示されてしまいます。

そのためFMSを活用するにしても
点数付けをするだけでなく、
「どのようなエラーが起こったのか」
といったことをメモしておく必要があるでしょう。

実際、FMSの研究ではないのですが
オーバーヘッドスクワットや
片脚スクワットの動作について
6項目ほどの項目で
「どのようなエラーが起こったのか」
を評価した研究では、
各評価項目と関連した傷害のリスクが
報告されています(文献4)。

まとめ

結局、動作の質の評価の研究では、
単純な点数付けをするだけでなく
その動作での評価を細かく見る目が
必要になってきます。

また動作を評価出来るだけでなく、
そのエラー動作を改善出来るところまで
セットで行えて初めて
傷害の発生を予防出来ます。

これらの情報を参考にしながら、
是非ご自身の環境に合った
スクリーニング方法を確立していってください!

執筆者:佐々部孝紀(ささべこうき)

参考文献

  1. Hewett, TE, Myer, GD, Ford, KR, Heidt, RS,
    Colosimo, AJ, McLean, SG, et al.
    Biomechanical measures of neuromuscular control
     and valgus loading of the knee predict anterior
     cruciate ligament injury risk in female athletes:
     A prospective study.
     Am J Sports Med. 33: 492–501, 2005.
  2. Kiesel, K and Hall, WG. Kiesel, K, Plisky, PJ,
    and Voight, ML
    Can Serious Injury in Professional Football be
     Predicted by a Preseason Functional Movement
     Screen?
     N Am J Sports Phys Ther. 2: 147–158, 2007.
  3. Newton, F, Mccall, A, Ryan, D, Blackburne, C,
    Fünten, D, Meyer, T, et al.
    Functional Movement Screen ( FMS TM ) score
     does not predict injury in English Premier League
     youth academy football players.
     Sci Med Footb 1: 102–106, 2017
  4. OʼConnor, S, McCaffrey, N, Whyte, EF,
    and Moran, KA.
    Can a Standardized Visual Assessment of Squatting
     Technique and Core Stability Predict Injury?
     J strength Cond Res 34: 26–36, 2020.
  5. Zalai, D, Panics, G, Bobak, P, Csáki, I,
    and Hamar, P.
    Quality of functional movement patterns and injury
     examination in elite-level male professional
     football players.
     Acta Physiol Hung. 102:34-42, 2015.