「科学的根拠に基づいたトレーニング」
といったものが徐々に広まってきています。

簡単に説明すると、
科学的に検証された知見や
トレーニング方法に基づいて、
本当に効果のあるトレーニングを
処方することを言います。

トレーナーの経験に基づいた
指導はダメなのか?
といったこともよく聞かれますが、
そんなことはありません。

ただ、経験則に基づいたトレーニングにも
欠点がある
のです。

経験則に基づいたトレーニングの欠点

経験というのはトレーナーをはじめ、
指導者には必要不可欠なものでしょう。

しかしながら時には
その経験があてにならないこともあるのです。

成果の要因を見誤る

例えば、チームの1年目の選手に対して
徐脂肪体重の増加を目的として
毎年トレーニングを行っており、
去年はAという方法、
今年はBという方法を用いたとします。

その結果、Bの方法を用いた今年のほうが
徐脂肪体重の増加が大きかったとします。

つまりBの方法のほうが
徐脂肪体重の増加には向いている、、、
ということにはならないのです。

もちろん、Bの方法のほうが
徐脂肪体重の増加に向いている
『可能性』は考えられます。

しかし、徐脂肪体重の増加に貢献したのが
トレーニング方法によるものだけではない
かもしれないのです。

例えば、昨年までは特に
栄養面でのアプローチはしていなかったのに、
今年から栄養士に協力を依頼して
栄養的なアプローチを始めたのであれば、
その影響かもしれませんよね。

また、コーチの考えが変わって、
練習時間が去年よりも短めになったのであれば、
その分エネルギー消費が抑えられて
徐脂肪体重の増加に貢献した可能性もあります。

はたまた今年は
1年目の選手に怪我人が続出し、
練習できないぶんトレーニングに打ち込めた結果、
その怪我人の数人の大きな徐脂肪体重の増加が
平均を引き上げているとも考えられます。

このように、
年ごとに違うトレーニングのアプローチを行い、
違う結果を得られていたとしても、
その結果の違いがトレーニングによるものだとは
限らないのです。

それにそもそも、
去年より成果があるように見えて
実はそこまで大きな差があるのか
微妙な場合もあります。

例:

  • 去年の増加:3㎏±2kg
  • 今年の増加:3.1kg±2kg

↑去年より優れている?

研究ではどのように検証するのか?

一方、研究での検証は、シンプルに言うと
「条件を設定した中で実際にやってみる」
というものです。

「実際にやってみる」といった点では
「経験」と変わらないのですが、

  • 条件を設定する
  • 結果を統計的に比較する

といった点がただの経験とは異なります。

まずは選手(被験者)を
ランダムに複数の群に振り分け、
それぞれに違うトレーニング(A or B)を
処方します。

そしてその時に重要なのが、
練習内容、栄養的アプローチなど、
他の条件を両群で同じにするということです。

これを研究手法の1つ、
ランダム化比較実験と言います。

こうすることで先述した問題点、
トレーニング方法以外の違いによるものの
可能性を排除できますよね。

そして結果の比較です。

上で挙げたように、
去年は3.0kgの増加、今年は3.1kgの増加、
くらいだと、本当に差があったと言っていいか
微妙ですよね。

人によって
「0.1kgも十分大きな増加だ!」
「このくらいの差は偶然なんじゃないの?」
など色んな意見が出てきます。

そこで統計的な分析の出番です。

統計的に分析することで、

  • 結果の違いの確実性
  • 結果の違いの大きさ

などを客観的に数値で評価できるのです。

まとめ

最初に述べたように、
経験が意味のないものだとは言いません。

ただ、経験則の落とし穴というものを理解し、
そこを補完するデータとして
科学的なデータを活用できると
より指導のクオリティが上がるでしょう。

また科学的根拠を活用するための論文の探し方、
読み方なども紹介していきます!

執筆者:佐々部孝紀(ささべこうき)