『リカバリー』と聞いて、
皆さんはどのような方法を思い浮かべますか?

伝統的に行われてきたものとしては、
『ストレッチ』『軽運動』『マッサージ』
などでしょうか。

近年、リカバリーに関する科学的知見も
だんだんと積み重なってきています。

そこで今回はTorresら(2012)の
メタアナリシスを参考に、
各リカバリーの手法の効果
紹介していきます。

各リカバリーの効果

このTorreら(2012)の研究では、

  • マッサージ
  • クライオセラピー(冷水浴)
  • 軽運動(ジョギングなど)
  • ストレッチ

の4つを主なリカバリーの手法とし、
その手法を用いた研究について集めて
メタ解析を行っています。

また、リカバリーの効果を検証するときに、
『疲労』をどう定義するかによっても
変わってきますが、この研究では

  • DOMS(遅発性筋痛)
  • 筋力の変化

の2つを疲労の指標として扱っています。

DOMS(遅発性筋痛)への効果

DOMS、いわゆる筋肉痛に対する効果は、
以下の図のようになりました。

運動介入から1時間後の時点では、どの介入も、
コントロール群(リカバリーなし)に比べて
有意な効果はなかったようです。

運動介入から24時間後になると、
マッサージにのみ有意な効果が表れています。
しかしその効果の大きさは
10㎝のVASのうち0.33㎝と、
決して大きな効果ではないようです。

図では示していませんが、48~72時間後では、
クライオセラピーも有意な効果を示しています。

ストレッチと軽運動はどの時間でも
有意な効果を示しませんでした。

筋力回復への効果

激しい運動を行った後は、
疲労により筋力は低下しますよね。

この研究では、そのリカバリー手法が
低下した筋力の回復(もしくは筋力低下の予防)に
どの程度効果を与えたのかも示されています。

運動介入から1時間後では
マッサージが有意な効果を示し、
24時間後では
クライオセラピーが有意な効果を示しました。

ストレッチと軽運動はどの時間でも
有意な効果を示しませんでした。

効果のあるリカバリー手法

この研究では、
遅発性筋痛の予防、筋力回復ともに、

効果あり
  • マッサージ
  • クライオセラピー
  • 効果なし
  • ストレッチ
  • 軽運動
  • といった結果でした。

    またマッサージはより即時的な効果があり、
    クライオセラピー効果が出る時間が遅くなるが、
    マッサージより大きな効果がある傾向でした。

    効果のなかったリカバリー手法

    一般的に『ダウン』といって、
    運動後にジョギングをすることが
    昔から推奨されていましたが、
    この研究では効果が示されませんでした。

    ダウンにどのような効果があるかというと、
    『乳酸の除去』です。

    グリコーゲンを分解してできる乳酸は、
    その後に軽い運動をしたほうが早く無くなる
    といった研究結果は昔からありました。

    しかし最近は
    『乳酸は疲労物質ではない』
    ということもわかってきており、
    乳酸の除去を根拠に勧められてきた
    軽運動などの手法も、
    他の疲労の指標で効果を測定すると
    実際にあまり効果を示さなかった
    ということです。

    また、ストレッチに疲労回復の効果がない
    という結果も意外だったかもしれません。

    これに関しては、例えば、
    疲労の指標『筋の張り感』であったり
    『可動域の低下』として効果を測定すると
    違った結果になったかもしれませんね。

    また、最近の研究では、ストレッチは、
    高強度(不快感を感じるほど強く伸ばす)で行うと
    遅発性筋痛への効果はなかったが、
    低強度で行うと有意に遅発性筋痛を予防した
    という報告(Apostolopoulos et al., 2018)もあり、
    どのように行うかで結果も違ってくるのでしょう。

    まとめ

    今まで習慣的に実施してきたものが、
    実は効果がなかった
    、ということは
    意外に身の回りに転がっています。

    今一度行っているアプローチを
    疑って見てみるのもいいかもしれませんね。

    執筆者:佐々部孝紀(ささべこうき)

    参考資料

    1. Torres R, Ribeiro F, Alberto Duarte J, Cabri JM
      Evidence of the physiotherapeutic interventions used
      currently after exercise-induced muscle damage:
      Systematic review and meta-analysis
      Physical Therapy in Sport 13 (2012) 101-114
    2. Apostolopoulos NC, Lahart IM, Plyley MJ, Taunton J,
      Nevill AM, Koutedakis Y, Wyon M, Metsios GS
      The effects of different passive static stretching intensities on
      recovery from unaccustomed eccentric exercise
      – a randomized controlled trial
      Appl Physiol Nutr Metab., 2018 (815):1-10