「次の日に疲労を残さないように
しっかりとダウンしとけよ~」
というセリフ、昔から良く聞きますよね。

ダウンをする理由を指導者や選手に聞くと
「次の日に疲労を残さないため」
「怪我を防ぐため」
「次の日も良いコンディションで
練習できるように」
などの答えが返ってくると思います。

ではそれって本当なの?
どこからの情報?と問われると、
「いや、昔からみんなやってることだし、
効果あるでしょ」
なんて答えが返ってきそうです。

上記の問いに対するヒントになる
レビュー論文が今年発表されました。
本日はそのレビュー論文※1の内容を
紹介していこうと思います。

運動後のクールダウンについての報告

Do We Need a Cool-Down After Exercise?
A Narrative Review of the Psychophysiological
Effects and the Effects on Performance,
Injuries and the Long-Term Adaptive Response.

「我々は運動後にクールダウンをする
必要があるのか?」と題されたこの論文。

具体的には、運動後の低~中強度運動の、
当日、翌日以降のパフォーマンスへの影響、
コンディション関連指標への影響について、
様々な研究を紹介しながら述べています。

それではさっそく内容を紹介していきます。
ここでいう「ダウン」は、
ジョグ、バイクなどを用いた低~中強度運動
のことを指します。

当日のパフォーマンスへの影響

運動後、次の運動に備えてダウンを行うと、
むしろパフォーマンスに悪影響を及ぼすようです。
試合後にまた試合が控えている場合は
さっさと栄養補給をして休んだほうが
良さそうです。

翌日以降のパフォーマンスへの影響

結論から言うと、様々な結果が報告されており、
ダウンによってパフォーマンスが
上がるとも下がるとも言えなそうです。

その中でも、

  • 競技レベルの高い選手の場合
  • 水中でダウンを実施した場合

などはダウンの効果がありそうです。

競技レベルが低い(体力レベルが低い)場合は
ダウンをすることでむしろ疲れてしまう
ということでしょうか。

水中での運動はむしろ、
運動自体というより水による冷却、
水圧による静脈還流(心臓へ血液を返す働き)の
効果かもしれないので、ダウンの効果とは
断言できなそうです。

疲労(コンディション)への影響

一言に疲労といっても、様々な要因があります。
ざっと整理すると、

  • 血中(筋中)乳酸濃度
  • 筋肉痛
  • 筋ダメージ
  • 神経疲労
  • 筋タイトネス(可動域)
  • 筋グリコーゲン量
  • 精神的疲労度

あたりが挙げられます。

詳細は論文の本文を読んでほしいのですが、
数々の研究を整理した結果、
ダウンがこれらの要素に与える影響の傾向は
以下のように整理されています。

  • 血中(筋中)乳酸濃度
    ⇒効率的に下げる
  • 筋肉痛
    ⇒影響なし
  • 筋ダメージ
    ⇒影響なし
  • 神経疲労
    ⇒影響なし
  • 筋タイトネス(可動域)
    ⇒影響なし
  • 筋グリコーゲン量
    ⇒むしろ悪影響
  • 精神的疲労度
    ⇒影響なし(被験者によっては悪影響?)

効果がありそうなのは、乳酸濃度の低下。
逆に悪影響を与えそうなのは
筋グリコーゲン量でした。

ここで注意をしてほしいのが、
「乳酸=疲労の主要な原因」ではないということ。
実は近年の研究では乳酸と疲労の関係は薄い
とされており、このレビュー論文でも、
乳酸濃度が低下したからといって
パフォーマンスは向上しなかったことが
示されています。

十数年前までは、
乳酸=疲労の原因だと信じられており、
ダウン=乳酸濃度を下げる研究が多かったため、
「運動後にはダウンをするべきだ!」
と思われていたのです。

しかしながら先述した通り、ダウンを行っても
当日のパフォーマンスにはむしろ悪影響だし、
翌日以降のパフォーマンスにも効果があるとは
断定できません。

それに筋グリコーゲン量に関しては、
むしろダウンをすることで減少してしまいます。
筋グリコーゲンはいわば筋肉のガソリンなので、
これでは逆効果ですよね。

まとめ

「運動前には必ずダウンをするべき!」
ということは、強くは言えないようです。

ある程度の体力レベルを備えたアスリートでは、
低強度運動を数分~十数分行うことで、
もしかしたらリカバリーに若干の効果が
あるかもしれません。

しかしその十数分を、
効果がある「かも」といったダウンに使うより、
他にもっと効果的に使える方法が
あるかもしれません。

チームにとってもアスリートにとっても
時間は有限です。

常により良い時間の使い方ができるように
頭を捻っていきましょう!

執筆者:佐々部孝紀(ささべこうき)

参考文献

  1. Hooren, B Van and Peake, JM.
    Do We Need a Cool-Down After Exercise?
    A Narrative Review of the Psychophysiological Effects and
    the Effects on Performance , Injuries and the Long-Term
    Adaptive Response.
    Sport Med , 2018.
    https://doi.org/10.1007/s40279-018-0916-2