「脚にめちゃくちゃ乳酸溜まっています」

走り込みを終えた選手の口から
時折聞くことはありませんか?

乳酸は
グリコーゲンをエネルギーとして使用した時の
代謝産物であり、
強度が高い運動をある程度の時間で行ったときに
血中乳酸濃度は高くなります。

一方で、
強度が高いけど短い時間の運動、
例えばウエイトリフティングや走り高跳びでは
そこまで乳酸濃度は高くならないようです。

またマラソンのような長時間の運動においても、
血中乳酸濃度が蓄積しすぎないペースで走るので、
そこまで高い乳酸濃度にはならないようです。

中距離走や高強度運動を間欠的に繰り返す
球技スポーツにおいて、
血中乳酸濃度は高くなる傾向があります。

実は前回のブログで紹介した
βアラニンが効果を発揮する運動と
同じような運動で乳酸濃度が高くなるようです。

言い換えると、
血中乳酸濃度が高くなるような運動課題だと、
βアラニンが効果を発揮するとも言えます。

血中乳酸濃度が高い=疲労してしまっている?

そもそも『疲労』と一言にいっても、
単一の要因だけでなく
様々な要因によって引き起こされます。

  • 中枢神経系の疲労
  • 筋のダメージ
  • 水分不足

など様々な要因がありますが、
現場レベルで乳酸と疲労の関わりを
簡潔にイメージするためには

  • 筋の酸性への傾き
  • 無酸素エネルギー発揮能力
  • 有酸素エネルギー発揮能力

この3つを考えることで
おおまかなイメージはつかめるでしょう。

先述した通り、
グリコーゲンなどのエネルギー源を利用した
無酸素エネルギーの代謝において、
乳酸や水素イオンなどの代謝物が産生されます。

それらの代謝物によって筋が酸性に傾くと、
筋の収縮がしづらい状況になります。

その点で言うと、
乳酸は疲労に関与するというのも
あながち間違いではありません。

次に無酸素エネルギー発揮能力ですが、
しっかりとグリコーゲンが貯蔵されていたり、
大きな筋力やパワーを発揮し続けられると、
短距離や中距離で
高いパフォーマンスを発揮出来ます。

無酸素パワー発揮能力が高い選手は、
『その結果乳酸濃度を高く出来ている』とも
捉えられます。

有酸素エネルギー代謝においては、
乳酸はそのエネルギー源になります。
つまり乳酸があるからこそ
筋肉も有酸素エネルギーを用いて
収縮出来るということですね。

つまり、
高強度の持続的運動において
乳酸濃度が高い状況というのは

『無酸素エネルギー発揮能力が高いから』

というケースと、

『有酸素エネルギー発揮能力が低いから』

という2つの要因が考えられます。

実際、
同じVO2maxの球技スポーツアスリートと
持久系アスリートにおいて、
同様の間欠的運動を行ったところ、
球技スポーツアスリートのほうが
1本目のスピードが高く、
かつ運動後の乳酸濃度が高かったという
研究もあります。

また、練習ボリュームを増やして
疲労でパフォーマンスが
落ちてしまっている状況では、
疲労困憊まで行う運動時の乳酸濃度が
低くなっているケースも報告されています。

つまり、一概に
血中乳酸濃度が高い=疲労している、
もしくは持久力が低いとは言えず、
どちらかというと無酸素エネルギー供給と
有酸素エネルギー供給のバランスで
血中乳酸濃度は決まると考えられます。

まとめ

有酸素能力が高い選手のほうが、
同じ強度の運動では
血中乳酸濃度は上がりづらいですし、
運動強度・時間に依存して乳酸濃度は高まります。

また、血中乳酸濃度が高まると
筋が酸性に傾くので、
筋は力を発揮しづらくなります。

その点では乳酸は
疲労に関連しているとは言えるでしょう。

一方で、
無酸素パワー発揮能力が高いから
乳酸濃度が高くなるケースもありますし、
逆に疲労の影響で
エネルギーを供給出来ないことで
乳酸濃度が上げられないという
ケースもあり得ます。

様々な要因が絡んで変化する変数ですので、
その背景を正しく理解した方が良いでしょう。

参考文献

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    Lievens, E, Irwin, C, Sabapathy, S, et al.
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