『PAP』

まだ聞き慣れない人も多いかもしれませんが、
少しずつ日本のスポーツ界にも
浸透してきているのではないでしょうか?

これはPost Activation Potentiationの略で、
日本語に直すと『活動後増強』と呼ばれます。

簡単に説明すると、
高重量のスクワット、
クリーンなどのクイックリフト、
台から落下して行うドロップジャンプなど、
大きな負荷をかけた刺激の後に、
ジャンプやスプリントなどのパワー系動作の
パフォーマンスが上がる現象のことを指します。

少し古いですが、バスケ界では少し有名な
『ジャンプアタック』と言う本があります。

この本では、
ジャンプ力を高めるためのトレーニングについて、
マイケル・ジョーダンのトレーナーを務めた
ティム・グローバーが解説しており、
そのトレーニングプログラムの中でも、
スクワットを行った後にジャンプを行うように
書かれています。

これもPAPによるトレーニング効果の増大を
狙ったものなのでしょう。

このPAPでは、
最大のパフォーマンスを発揮するためには、
強度や、刺激を入れた後の回復時間を
適切に設定する必要があります。

本日はその数値の設定に関する研究を紹介します。

PAPの効果を最大化するには

2013年にはWilsonらが、
2016年にはSeitz&Haffが、
それぞれメタアナリシスを発表しています。

解析に採用されている論文や分析方法の違いから、
違う結論が導き出されている部分もあるので、
2つのメタアナリシスに共通して言える部分を
紹介していきます。

トレーニング歴・レベルによるPAPの違い

トレーニング歴や筋力レベルが高いほうが
PAPの効果は高いようです。

Wilsonらの研究のES(効果量)では、

トレーニング経験 ES
継続的なトレーニング経験なし 0.14
1年以上のトレーニング経験 0.29
3年以上のトレーニング経験&
大学、プロレベル
0.81

となっており、
レベルの高い選手ほど
PAPの効果も高くなっている
ことが分かります。

Seitz&Haffの研究では非鍛錬者と鍛錬者にしか
カテゴリ分けされていませんが、
同じく鍛錬者のほうが大きなESを示しました。

刺激の後のレスト時間

刺激を加えた後のレスト時間についても
解析されており、Wilsonらの研究でのESは

レスト時間 ES
2分以下 0.17
3~7分 0.54
7~10分 0.70
11分~ 0.02

となっており、
全体としては7~10分が一番効果があり、
短すぎても長すぎても効果は薄いようです。

この結果はSeitz&Haffの研究でも
おおかた一致しています。

何故このような現象が起こるかというと、
『刺激による活動後増強』と
『刺激直後の疲労』の関係性
によるものだと考えられます。

この関係性は、以前の記事でも紹介した
フィットネス-疲労理論とも似ています。

この図の『フィットネスへのトレーニング効果』が
そのまま『活動後増強』に置き換えられ、
直後は疲労が大きいため活動後増強が打ち消され、
時間が経ちすぎると活動後増強自体が
なくなってしまうと考えられます。

そのため適切なレスト時間は、
トレーニングレベル、言い換えると
『疲労への耐性』によっても
微妙に変わってきます。

疲労への耐性が強い場合は、
活動後増強の効果が早く表れるので、
トレーニングレベルが高いほど
適切なレスト時間は短くなります。

実際にWilsonらの研究でも、
アスリートの場合は5分前後が
PAPの効果が大きいと示されています。

強度・セット数

最後に、実際にどのような刺激を与えるか
といったところなのですが、実はこの部分で
Wilsonらの研究とSeitz&Haffの研究で
異なる結果が得られています。

なので、運動強度やセット数は、
そのアスリートの疲労耐性や、
取れるレスト時間に応じて決めるのが
いいと考えられます。

目安としては、

  • 1RMの70~95%
  • セット数は1~3セット

あたりでしょうか。

まとめ

PAPは普段のトレーニングにも活用できますし、
環境さえ整っておけば大事な試合のアップの一環
としても使えます。

是非アスリートコンディショニングに
活用してください!

執筆者:佐々部孝紀(ささべこうき)

参考文献

  1. Seitz, LB and Haff, GG.
    Factors Modulating Post-Activation Potentiation of Jump ,
    Sprint , Throw , and Upper-Body Ballistic Performances:
    A Systematic Review with Meta-Analysis.
    Sport Med 46: 231–240, 2016.
  2. Wilson, JM, Duncan, NM, Marin, PJ, Brown, LE,
    Loenneke, JP, Wilson, SMC, et al.
    Meta-Analysis of Postactivation Potentiation and Power.
    J Strength Cond Res 27: 854–859, 2013.
  3. JUMP ATTACK―The Formula for Vertical Game
    Tim S. Grover (原著), 大西 敦子 (翻訳)
    日本文化出版 (2001/01)