山間部での合宿など、
坂道が多くある場所だと
ついつい走りたくなってしまいますよね。

専門的なスプリンターであったり
走りのピッチやストライドの改善のために
坂道のトレーニングを導入する場合は、
通常の走りとかけ離れ過ぎないように
小さな勾配での坂道を活用する必要が
あるでしょう。

しかし坂道でのトレーニングは
そういった走りのスキル向上以外にも、
様々な身体の適応をもたらします。

どのような身体の適応をもたらすのか、
ご紹介します。

心肺機能への負荷

上り坂と下り坂の大きな違いは

  • 接地のストレスの大小
  • 主な筋収縮様式

2点にあると思います。

下り坂のほうが接地のストレスは大きくなり、
上り坂においては平地のランニングよりも
接地のストレスは小さくなります。

また、下り坂においては
平地のランニングよりも
エキセントリックな負荷が大きくなり、
上り坂においてはコンセントリックが
メインになります。

Vallejoらは
筋の収縮様式の違いが、
身体へのどういった違いをもたらすかを

  • エキセントリックのみのスクワット
  • コンセントリックのみのスクワット

をそれぞれ用いて比較しました。

その結果、
エキセントリックのみのスクワットでは
平均98回/分の心拍数を記録し、
コンセントリックのみのスクワットにおいては
それよりも大きく、
心拍数は平均116回/分を記録したことが
報告されています。

つまり同じ負荷を用いたとしても、
コンセントリック収縮を用いたほうが
心肺機能への負荷は大きいということになります。

そのため心肺機能強化が目的であれば、
坂は上りを用いたほうが良いでしょう。

筋肉への負荷

接地の衝撃自体は
もちろん下り坂のほうが大きくなるので、
関節へのダメージは下り坂のほうが
大きくなります。
そのため、怪我のリスクは
下り坂のほうが大きいでしょう。

一方で筋肉の適応についても
上りか下りかで変わってきます。

単純なパワー発揮という観点では、
もちろん上り坂のほうが大きくなるので、
上り坂に限らず、
段差の大きい階段のかけ上がりなどは
下肢のパワートレーニングとして
活用できるでしょう。

一方で筋形態の適応という観点においては、
下り坂にも大きなメリットがあります。

動物実験になるのですが、
ラットを上り坂と下り坂でそれぞれ運動をさせ
筋を採取した研究では、
下り坂において筋線維長の増加
(≒直列サルコメア数の増大)が認められました。

これはヒトにおいて

  • エキセントリックのみのレッグエクステンション
  • コンセントリックのみのレッグエクステンション

2点を実施した研究とも結果が一致しています。

エキセントリックのトレーニングは
動作としてはパワー発揮をしていないものの、
筋線維束長の増大はパワー発揮能力向上とも
関連性は強いため、
間接的にパワー発揮能力向上にも
貢献すると考えられます。

また、これは坂道の勾配の設定によっても
変わってくる部分もあります。

例えば坂道が急であるほど
一歩一歩のブレーキが大きくなるので
大腿四頭筋のエキセントリックの刺激が
大きくなると考えられます。

一方で、ある程度小さい勾配の坂道のほうが
スプリントフォームが崩れることなく
スピードが出せるので、
ピッチ・ストライドの増加により
ハムストリングのエキセントリックの負荷が
強くなると考えられます。

まとめ

それぞれの目的別の使い方をまとめると
以下のようになります。

  • 心肺機能向上が目的なら上り坂
  • パワー発揮をしたいなら上り坂
  • パワー発揮の基礎となる筋線維束長の増大を
    狙うなら下り坂

また、スプリントの技術的な観点
(ストライドの増加、ピッチの増加、
スタート局面のパワー発揮増大、
最大スピードの向上など)を含めると、
また目的ごとに細分化できると考えられます。

どちらが良いというよりも、
目的によった使い分けが必要ということですね。

いい具合の坂道を見つけたら、
是非活用してみてください!

参考文献
1. Lynn, R and Morgan, DL. Decline running produces
 more sarcomeres in rat vastus intermedius muscle fibers
 than does incline running. J Appl Physiol 77:
 1439–1444, 1994.
2. Timmins, RG, Ruddy, JD, Presland, J, Maniar, N,
 Shield, AJ, Williams, MD, et al. Architectural Changes of
 the Biceps Femoris Long Head after Concentric or
 Eccentric Training. Med Sci Sports Exerc 48:
 499–508, 2016.
3. Vallejo, AF, Schroeder, ET, Zheng, L, Jensky, NE, and
 Sattler, FR. Cardiopulmonary responses to eccentric and
 concentric resistance exercise in older adults.
 Age Ageing 35: 291–297, 2006.